■ 特定建設業許可の取得を検討しているものの、一般建設業許可との違いがわからない
■ 自社が本当に特定許可を取れるのか不安
■ 手続きの流れや必要書類が複雑で、なかなか作業が先に進まない
といった悩みを抱える建設会社の経営者は少なくありません。
本日は、これまで多数の建設会社を「特定建設業許可の取得」へと導いてきた行政書士法人スマートサイドの代表・横内先生が、申請にあたっての実務的な要件や注意点、スムーズに進めるためのコツについて、専門家の立場から、わかりやすくお答えしています。
「特定許可に切り替えるタイミングは?」「どんな書類を用意すべき?」といった現場のリアルな疑問にも触れながら、読者が実際の手続きのイメージを持てるような内容となっています。これから特定建設業許可を取得したいとお考えの建設会社のみなさんにとって、安心して一歩を踏み出すきっかけになるような情報をお届けします。ぜひ最後までご覧ください。
特定建設業許可の「意義」・「要件」
それでは、横内先生、本日も何卒、よろしくお願いいたします。
はい。こちらこそ、よろしくお願いします。本日のテーマは「特定建設業許可」についてですね。「一般建設業許可を持っているものの、いずれ特定建設業許可を取得したい」とか、「すぐにでも一般を特定に切り替えたい」という人が多いと思うので、すでに一般建設業許可を持っている会社を対象に、お話しを進めさせて頂きます。
まず、特定建設業許可は、「発注者から直接工事を請負う元請の立場で」「下請に5,000万円以上(建築一式の場合には8,000万円以上)の工事を発注する場合」に必要になる許可です。このあたりの前提知識については、弊所のホームページにも記載があるので、おさらいをしたい人はぜひ、ホームぺージ(※注)を確認してみてください。
(※)特定建設業許可を取るための要件を、わかりやすく解説!専門家による【完全ガイド】
また、特定建設業許可を取得するには、一般建設業許可を取得する場合と違って「技術者の要件」と「財産的要件」の2つが重要になってきます。特定建設業許可を取得する場合には「技術者の要件」として1級の国家資格者がいること、「財産的要件」として「欠損比率20%以下」「流動比率75%以上」「資本金2000万円以上」「純資産合計4000万円以上」が必要になってきます。
その点については、多くの情報がネット上にありますが、初めて知る人もいると思うので、一般建設業許可との違いを含めて、少し、解説をして頂けますか?
はい。
一般建設業許可を取得する場合には、専任技術者は2級の資格者でも大丈夫でした。また、実務経験を証明して専任技術者になることができました。しかし、特定建設業許可を取得する場合には、原則として1級の資格者が必要になります。仮に、建築工事の特定建設業許可を取りたいのであれば、「2級建築施工管理技士」ではなく「1級建築施工管理技士」、「2級建築士」ではなく「1級建築士」が必要です。また、仮に土木工事の特定建設業許可を取りたいのであれば「1級建設機械施工管理技士」、「1級土木施工管理技士」がそれぞれ必要になります。
また、一般建設業許可を取得する場合の財産的要件は、純資産合計が500万円以上で足りました。しかし、特定建設業許可を取得する場合の財産的要件は、純資産合計が500万円以上あればよいというだけでなく、先ほどお伝えした「欠損比率」「流動比率」「資本金」「純資産合計」の4つの条件を満たしていなければならないのです。
一般建設業許可を取得するよりも、特定建設業許可を取得する方が、ハードルが高いということが言えそうですね。
はい。そのように考えて頂いて問題ありません。
はじめての許可申請で、特定建設業許可を取得することもできますが、多くの会社の場合、まずは、一般建設業許可を取得してから特定建設業許可に切り替えるという流れが多いです。そのため、一般建設業許可を取得した時と異なり、特定建設業許可を取得するためのハードルがとても高いので、驚かれる社長もいらっしゃいます。
なぜ、このように特定建設業許可を取得するためのハードルが高いのかというと、一般建設業許可と特定建設業許可の工事規模の違いにあると言えます。一般建設業許可を取得すると500万円以上の工事を施工することができるようになります。一方で、特定建設業許可を取得すると「元請の立場で」「下請に5000万円以上(建築工事の場合は8000万円以上)の工事を発注」することができるようになります。
「一般」と「特定」を比べると、あきらかに「特定」の方が、規模が大きいですし、発注者に対する責任はもちろんのこと、下請に対する責任も生じてきます。工事全体の進捗状況を管理するのはもちろんのこと、下請工事の状況や下請会社に対する賃金の支払いなど、より大きな技術力と財力が必要になってきます。
そのため、建設業法は、特定建設業許可を取得するための要件として「技術力」「財産力」を求めて、施工ミスや賃金未払いといったことが起きないように「発注者」「下請会社」の両者を保護する目的で、厳しい要件を課しているのです。
一般建設業許可から特定建設業許可への変更手続き
特定建設業許可を取得するには、「1級の資格者」「4つの財産的条件」を満たしていないといけないことが、よくわかりました。それでは、実際に、一般建設業許可を特定建設業許可に変更する際の手続きについて教えてもらえますでしょうか?
はい。
一般建設業許可を特定建設業許可に変える手続きのことを、「般特新規(はんとくしんき)申請」と言います。般特新規申請を行うことによって、一般から特定に切り替えることができるわけですが、申請の種類としては、「変更」ではなく「新規」扱いになるので、行政庁へ支払う手数料も「新規申請」のときと同様に9万円になります。
現時点での、専任技術者が2級の資格者であった場合、特定建設業許可を取得するための「般特新規申請」をする前に、「専任技術者の変更届」を提出していなければなりません。
たとえば、御社が、2級建築士を専任技術者にして、建築工事の一般建設業許可を持っていたとします。2級建築士は、一般建設業許可の専任技術者としての要件は満たしているもの、特定建設業許可の専任技術者としての要件は満たしていません。そのため、一般建設業許可を特定建設業許可に切り替えるには、般特新規申請を行う前に、御社の専任技術者を2級建築士から1級建築士に変更するための「専任技術者の変更届」を提出しなければなりません。
当然のことながら、専任技術者は御社に常勤していることが必要ですので、常勤していない1級建築士や、他社に勤務している1級建築士を御社の専任技術者に登録することはできません。1級建築士が社内にいない場合には、新たに採用するか、もしくは、現在いる社員に1級建築士試験に合格してもらうしかないのです。
「専任技術者の変更届」の提出が必要な点は、よく理解できました。厄介なのは財産的要件の方だと思うのですが、いかがでしょうか?
はい。
専任技術者は、2級の人から1級の人に変更するというシンプルな手続きですので、それほど、難しくないかもしれません。しかし、財産的要件については、より注意しなければならない点が、数多くあります。
1つ目は、財産的要件を満たしている時期です。
「欠損比率」「流動比率」「純資産合計」は、直前の確定した決算の貸借対照表の数字で確認が行われます。そのため、直前の確定した決算書の貸借対照表の数字で満たしていることが必要です。直前の確定した決算書の貸借対照表の数字で、「流動比率」を満たしていないような場合には、次回の決算で「流動比率」を満たすまで、特定建設業許可を取得することができません。
一方で、「資本金」については、直前の確定した決算の時点で満たしている必要はなく、申請時点で満たしていれば足ります。より詳しく言うと、申請時点の登記簿謄本に記載されている資本金の額で判断されます。
このように、ひとことで財産的要件と言っても、判断の基準となる期日が異なることに注意が必要です。
2つ目は、資本金の変更をした場合には、般特新規申請の前に、「資本金変更届」の提出が必要になるという点です。
みなさんの会社が、資本金1000万円だった場合。この資本金1000万円を2000万円に変更しなければ、特定建設業許可の財産的要件を満たすことができません。資本金は、登記簿謄本の記載事項ですので、資本金を変更した場合には、登記の変更も必要です。登記の変更は、法務局への届出で、都庁や県庁への建設業許可に関する届出とは、別物です。多くの会社が、司法書士の先生に登記の変更手続きを依頼しています。
そして、登記の変更が終わった後に、都庁や県庁の建設業課に「資本金の変更届」を提出する必要があります。先ほどの「専任技術者の変更届」と同様に、特定建設業許可を取得する前に変更届を提出しておくことが必要です。
一般建設業許可を特定建設業許可に変えるための「般特新規申請」を行う前に、やらなければならないことが結構あるのですね?
はい。多くの建設会社さんが、「一般」を「特定」に切り替えることにしか、気が向いていないのですが、事前の準備を怠れば、「一般」を「特定」に変えることはできません。
たとえば、1級の資格者をあらたに採用して特定建設業許可を取得するようなケースでは、1級資格者の常勤性を証明する資料として、「健康保険証」や「資格取得確認通知書」などが必要になります。これらの手続きは、社会保険労務士さんの専門なので、社会保険労務士の先生の協力が必要になります。
また、前期の決算で、特定建設業許可の取得に必要な4つの財産的要件を満たしていなかったようなケースでは、次回の決算までに、増資を行うなどして財産的要件を確実に満たす必要があります。こういった作業については、税理士の先生の知見が必要になります。資本金の額によっては、法人住民税の額も変わってきてしまうからです。(※注:総務省のホームぺージ参考)
先ほどの登記手続きに関する司法書士の先生だけでなく、社労士、税理士といった士業の先生との連携がうまく行くかという点も、特定建設業許可をスムーズに取得するための大変重要なポイントになってくるのです。
特定建設業許可取得のために「決算期を変更する」という選択肢
実際に、横内先生の事務所で、一般建設業許可を特定建設業許可に変更する依頼を受けた場合には、どのような流れになるのですか?
はい。参考までにお話しすると。
私の事務所で、特定建設業許可取得のご依頼を受けた際には、まずは、「1級の資格者の在籍」と「直近決算の財産的要件」を確認させて頂きます。もし、仮に、1級の資格者が在籍していて、直近決算の数字から財産的要件を満たしているようであれば、すぐに、手続きに入ることが可能です。たとえば、取締役の住民票や身分証明書などの公的書類を収集したり、会社の登記簿謄本を取得したり、申請書の作成を開始したりすることができます。
1級の資格者が在籍していない場合には、1級資格者の採用活動から、はじめてもらいます。採用が決まったら、社会保険労務士の先生と連携して、「いつから入社なのか?社会保険に関する手続きはいつ頃を目途に終わらせることができるのか?」という点について、進捗を共有してもらいます。
財産的要件を満たしていない場合には、税理士の先生と連携して、「次回の決算まで待つのか?それとも、決算期を変更して、強引に特定建設業許可を取得しに行くのか?」という判断を社長にして頂きます。
決算期を変更するというのは、どういうことですか?
前回の決算の貸借対照表で4つの財産的要件を満たしていなかった場合、次回の決算で、その4つの財産的要件を満たすまでは、特定建設業許可を取得することができません。しかし、次回の決算が、必ずしも1年後である必要はありません。
たとえば、3月末決算の会社の場合、翌年の3月末以降に次の決算が確定するのを待つのか?それとも、3月末決算を6月末決算に変更して、6月末時点で4つの財産的要件を満たしている状態にして、翌年の3月末を待たずして、特定建設業許可を取得するか?それは、会社が自由に決めて良いことなのです。
この点については、うちの事務所でも、いくつかの成功事例がありますので、後日のインタビュー(※注)でお話しさせて頂きますね。
(注)【専門家に聞く】特定建設業許可を最短で取得|工期に間に合わせるための申請実務
少し話がずれましたが、どうしても急いで特定建設業許可が欲しいという場合には、次回の決算を待たずして、決算期の到来を早めるように決算期の変更手続きを行ったうえで、特定建設業許可を取ることもできるということを、覚えておいてください。
この点については、税理士の先生との連携も重要になってきますね。
はい。税理士の先生との連携は、とても重要です。
最終的に、一般建設業許可を特定建設業許可に切り替えるための般特新規申請を都庁や県庁の建設業課に提出するのは、行政書士である我々の役目です。
ただし、そこにたどり着くまでに、社労士の先生や司法書士の先生や税理士の先生といった、専門家の力が必ず必要になってきます。そういった意味で、士業同士の連携は重要です。
ありがとうございます。そろそろお時間になってきました。最後に、本日のテーマで、ひとことお願いします。
私の事務所のお客さまの中には、「なんらかのプロジェクト」や「規模の大きい工事の受注」のために、ピンポイントで特定建設業許可が欲しいという経営者の人もいらっしゃいます。
たとえば、
- この夏に大規模イベントを控えていて、そのために、特定が必要
- 秋にある大規模工事受注に向けて、特定建設業許可が必要
というように、期限や時期が明確にわかっている人が多いように思います。そのような方に共通しているのは、「必要な時に、確実に許可を取っておきたい」という強い意志です。特定建設業許可の取得には、財務状況の確認、技術者の採用など、一定の準備が必要になります。期限があるからこそ、早めの着手と的確な段取りが何より重要です。
本記事を通じて、特定建設業許可の仕組みや流れを事前に把握しておくことで、「いつまでに、何を整えておくべきか」がクリアになり、スムーズに行動に移すことができると思います。この情報が、建設会社のみなさまの大切なタイミングを逃さず、チャンスを確実につかむ一助となれば幸いです。