「この工事、ぜひ受注したい。けれど、特定建設業許可が間に合うのか…」そんな焦りや不安を抱えながら、申請に踏み出せずにいる経営者の方へ。本記事では、建設業許可の実務に精通した行政書士法人スマートサイド代表・横内賢郎が、「特定建設業許可を“最短”で取得するための現実的な方法」を、実例を交えてお伝えします。
決算期を前倒しして財産的要件をいち早く整え、短期間で許可を取得したケースでは、億単位の大規模工事を受注できた成功事例があります。さらに、「税理士・社労士・司法書士と連携することで、いかにスムーズに手続きを進められるか?」といった専門家との連携が、許可取得のスピードと確実性を左右します。
「このタイミングを逃したくない」「なんとしても工期に間に合わせたい」そんな経営者の方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
特定建設業許可を取得するための要件
それでは、横内先生、本日もよろしくお願いします。
はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします。
今日は、特定建設業許可の取得について「どうやって工期に間に合わせるか?」というテーマですね。かなりピンポイントですが、密度の濃い話をできればと思っています。特定建設業許可の意義と要件については、前回のインタビュー記事(※注)でお伝えしましたが、ここでも、簡単に触れておきます。
(注)【専門家に聞く】一般建設業許可から特定建設業許可へ|要件と変更手続きのポイント
まず、特定建設業許可は、「発注者から直接工事を受注する元請としての立場で」「下請に5000万円以上(建築一式の場合には8000万円以上)の工事を発注する場合」に必要になる許可です。これだけ規模の大きい工事を施工するのですから、許可を取得するための要件である「技術者の要件」や「財産的な要件」は、一般建設業許可を取得するときよりも厳格になっています。
「技術者の要件」としては「1級の資格者」が在籍していること、「財産的な要件」としては「欠損比率20%以下」「流動比率75%以上」「資本金2000万円以上」「純資産合計4000万円以上」といった条件を満たしている必要があります。
ここのまでの情報については、インターネットでも多く見受けられると思いますし、さまざまな行政書士事務所のホームぺージでも情報発信されていることだと思います。
また、前回のインタビューでもお話ししましたが、「技術者の要件」である「1級資格者の在籍」や「財産的要件」のうち「資本金2000万円以上」という条件については申請時点で満たしていれば足ります。一方、「財産的要件」のうち「欠損比率20%以下」「流動比率75%以上」「純資産合計4000万円以上」という条件は、直近の確定した決算の時点で満たしていなければなりません。それぞれ、判断の基準となる期日が異なりますので、注意してください。
特定建設業許可の取得を「工期まで」に間に合わせる方法
このあたりについては、おおむね前回のインタビューで理解できています。今回のメインのテーマである「工期に間に合わせる」という点について、お話しいただけますでしょうか?
はい。前回のおさらいは、このくらいにして、今回のテーマである「どうやって工期に間に合わせるか?」という点ですね。
その前に1点だけ。
弊所に、特定建設業許可取得のご相談に見えるお客さまのほとんどが、「いつまでに取得したい」という期日を明確にしています。たとえば、取引先である発注者から「〇月下旬ころに大きな規模の工事案件を予定している」とか「〇月からのイベントに備えて、特定許可を取得しておいて欲しい」というように、依頼を受けているケースがほとんどです。なので、このインタビュー記事を読んでくれている人の中にも、おそらく、そういった大規模工事やイベントに備えて、特定建設業許可の取得を検討している人も、多いと思います。
ここからが本題なのですが、「直近の確定した決算で特定建設業許可に必要な財産的要件を満たしていなかった場合、発注者から指定された期限までに、特定許可の取得が間に合うのか?」という問題です。特定建設業許可が必要になる工事が、2年後や3年後ということであれば、慌てる必要はありません。しかし、そんなことは滅多にないでしょう。実際には、3か月後とか長くて半年後というスパンで、工期が迫っているはずです。
言い換えると、「3か月とか半年後の工期までに、特定建設業許可の取得を間に合わせることができるのか?」ということです。もちろん、そのようなスケジュールには、到底、間に合いそうにないので、「その工事の受注をあきらめる」という判断をすることもできるでしょう。しかし、長い付き合いのある取引先から、どうしても御社に受注して欲しいと言われて、無碍に断ることもできないでしょう。
何とかして、特定建設業許可の取得を間に合わせたいと思うのが、当然ですね。
3か月もしくは半年後の工期に間に合わせるために、特定建設業許可を取得する方法があるのですか?
はい。あります。
先ほど、お話しした通り「技術者の要件」である「1級資格者の在籍」や「財産的要件」のうち「資本金2000万円以上」という条件については申請時点で満たしていれば足ります。なので、許可申請時点までに、どうにかして1級資格者を採用し、資本金を2000万円に増資する必要があります。
一方で、「財産的要件」のうち「欠損比率20%以下」「流動比率75%以上」「純資産合計4000万円以上」という条件は、直近の確定した決算の時点で満たしていなければなりません。もし仮に、直近の確定した決算の時点で、この3つの条件を満たしていなければ、すくなくとも現時点での特定許可を申請することは絶対にできません。通常であれば、今期の決算が確定するまでに、この3つの条件を充足させて、今期の決算が確定してから、特定建設業許可を申請することになります。
しかし、それでは、3か月後や半年後の工期に間に合わせることができないかもしれません。そんな時に有効なのが、決算期を前倒しする方法です。
決算期の前倒しですか?会社の決算日を変更するということですか?
はい。おっしゃる通り、会社の決算日を変更し、前倒しするという方法です。ここからは、すこし話しがややこしくなるので、12月末決算の建設会社の東京都知事許可を例にとって、お話しを続けさせて頂きます。
例えば、12月末決算の会社が8月中に特定建設業許可を取得したいとなった場合、特定建設業許可を取得する際の要件の基準日はいつになるでしょうか?
- 「1級の資格者の在籍」は、申請日時点
- 「資本金2000万円」は、申請日時点
- 「欠損比率20%以下」は、12月末決算時点
- 「流動比率75%以上」は、12月末決算時点
- 「純資産合計4000万円以上」は、12月末決算時点
となります。この会社が、8月中に東京都の特定建設業許可を取得するには、おそくとも7月中には、都庁へ申請することが必要です。しかし、仮に、昨年の12月末の時点で「欠損比率」「流動比率」「純資産合計」を満たしていない場合には、通常であれば、今年の12月末の決算が確定する来年の3月以降でなければ、特定建設業許可を申請することができません。
ここまでは、大丈夫ですよね?
はい。とてもよく理解できます。
ただ、おそくとも7月中には、都庁へ申請することが必要であるのに、「来年の3月以降になってしまいます。」と取引先に答えたら、もう2度と、案件を発注してくれなくなってしまう可能性もありますよね。たとえば、「他にお願いできる業者に依頼することにしましたので、御社はもう結構です…」といったように。
では、この会社が、12月末決算という決算日を変更して、4月末決算に変更した場合はどうでしょう。4月末決算に変更した場合、当初の事業年度は、1月~4月までの4か月になってしまいます。その間に、12月末の時点では満たしていなかった「欠損比率」「流動比率」「純資産合計」を改善し、4月末時点で、特定建設業許可取得に必要な「財産的要件」を満たすことができたら、4月末決算の財務諸表を使って、特定建設業許可を申請することが可能になります。
税理士の先生の協力も必要になるところですが、4月末決算であれば、決算書が確定するのは6月末といったところでしょう。6月末に決算書が確定し、急いで、特定建設業許可取得に必要な諸々の書類を準備すれば、7月中には、都庁に特定建設業許可の申請を行うことができます。そうすれば、当初の目的通り、8月中に特定建設業許可を取得することができます。
なるほど、前回の決算で財産的要件を満たしていない場合、今期の決算が確定するのを待つのではなく、あえて、決算期を前倒しして財産的要件を満たしている状態を作出するということですね。
はい。おっしゃる通りです。
この方法を、「裏技」のように感じる人もいるかもしれませんが、決算期を自社の都合の良いように変更し、特定建設業許可を取得するということは、よくあります。
「決算期の変更・決算期の前倒しという方法を取ってまで、特定建設業許可を取りに行くか?」というのは、まさに、社長の経営判断になるでしょう。「1回の工事、1回のイベントのためだけに、特定建設業許可を取得する必要があるのか否か?」は、会社側で判断して頂かなければなりません。いままでの慣れ親しんできた決算期が変わるわけですから、それなりの抵抗を感じる人もいるでしょうし、今回の工事は失注しても構わないという人もいるでしょう。
ただ、工期が迫っている中で、「特定建設業許可取得の可能性が全くないというわけではない」ことを、よく理解して欲しいです。行政書士の先生や税理士の先生の中には、こういった方法を知らずに、「今回は特定建設業許可の取得は無理ですね」と安易に否定してしまう人も、中にはいます。
決算期の変更をして特定許可を取得した実例
横内先生の事務所では、実際にどんなケースで、決算期を早めて、特定建設業許可を取得したのですか?
1つ目は、大規模新築工事の受注の際に、決算期を早めて一般建設業許可から特定建設業許可を取得したケースがあります。この会社のケースでは、比較的早い段階から、特定建設業許可が必要になることがわかっていたので、準備にそれほど苦労はありませんでした。高齢者向け住宅、グループホームの新築工事を手掛ける会社で、建築工事の一般建設業許可を持っていましたが、特定建設業許可に切り替える際に、いままでお話ししてきた決算期の変更を行いました。具体的には、5月末決算から9月末決算に決算期を変更し、12月に特定建設業許可取得のための般特新規申請を東京都庁に行い、12月中に特定建設業許可を取得することができた事例です。
そのおかげで、5億5千万円の元請工事を受注することができました。
もちろん、特定建設業許可を取得できたのは、会社が決算期を変更し、財産的要件を具備したおかげですから、私たちの手柄というわけではありません。しかし、「次回の5月末決算を待っていたら、該当の案件の工事は受注できていなかった」ということで、お客さまに大変、喜んで頂いたのを覚えています。
2つ目は、区の公共工事の受注にあたって、解体工事の一般建設業許可を特定建設業許可に変更したケースがあります。このケースでもやはり、決算期を変更しました。この会社の場合、3月末決算を5月末決算に変更しています。その後6月中に般特新規申請を行い、7月に特定建設業許可を取得することができました。
そのおかげで、2億5千万円の「区立小学校・解体」の公共工事を受注することに成功しました。
これくらいの規模感の公共工事になると、発注者である自治体が入札に参加できる会社を特定建設業許可を持っている会社に絞って、発注してきます。いわば、「特定建設業許可を持っていること」が入札に参加するための条件になっているのです。そのため、期限までに確実に間に合わせるために、相当、手際よく申請手続きを行った記憶があります。
特定建設業許可の取得を「工期まで」に間に合わせる際の注意点
具体的に、どういった点に注意すれば、申請手続きはうまくいきますか?
まずは、なんと言っても、決算報告書の提出漏れには注意です。
まず、1つ目の会社であれば、決算期を5月から9月に変更しています。ですので、毎事業年度終了後4か月以内に提出することが必要な決算報告も「5月末のもの」と、「9月末のもの」が必要です。通常であれば、決算報告は年に1度提出すれば良いのですが、決算期を変更し、初年度は年に2回決算がある状態ですから、決算報告の提出も年に2回ということになります。2つ目の会社も同様に、「3月末決算での決算報告」「5月末決算での決算報告」の2回の届出を行いました。
続いては、「資本金の変更」「専任技術者の変更」に伴う変更届の提出です。
「資本金2000万円」も「1級の資格者」も、特定建設業許可の申請時点で満たしている必要があります。もし、現時点で「資本金が2000万円未満」「専任技術者が2級の資格者」ということであれば、特定建設業許可の申請よりも前、おそくとも申請と同時に変更届の提出がなされていなければなりません。
例えば、資本金が500万円であったのならば、資本金を500万円から2000万円に変更した旨の「変更届」、専任技術者が2級建築士であったのならば、2級建築士から1級建築士に変更した旨の「変更届」を、建設業法の定めに則って、許可行政庁に提出しておく必要があります。これらは、特定建設業許可を取得するための要件ですので、特定建設業許可の申請よりも、前に届け出ていなければならないのです。
他に注意点はありますか?
前回のインタビューでも触れましたが、税理士・社労士・司法書士との連携は不可欠です。
先ほど、資本金の変更届についてお話ししましたが、資本金は登記事項ですので、まずは、司法書士の先生に法務局に登記変更の手続きをおこなって頂く必要があります。登記簿謄本の変更が完了してから、許可行政庁への資本金変更届の提出、特定建設業許可申請という流れになります。
また、専任技術者の変更届も同様です。現在2級の資格者しかいないのであれば、まずは、1級の資格者を採用してもらう必要があります。特定建設業許可を取得するには1級の資格者が常勤していることが必要で、常勤性を証明するために社会保険への加入手続きが必要です。そういった手続きは、社会保険労務士さんの手続きです。「いつ入社するのか?」「いつ社会保険への加入手続きが完了するのか?」によって、特定建設業許可の取得の時期が変わってきてしまいます。そのため、社会保険労務士の先生との情報共有も欠かせません。
さらに、税理士の先生との連携も重要です。
そもそも、特定建設業許可取得に必要な財産的要件のうち、「欠損比率」「流動比率」「純資産合計」は、貸借対照表によって判断されます。決算期を早めたところで、この3つを満たしていなければ、特定建設業許可を取得することはできないのですから、きちんと税理士さんに事前に判断してもらうことが必要です。
また、仮に税理士さんが作成する財務諸表の出来が遅かったら、決算期を早めた意味がありません。通常は、決算後2か月程度で財務諸表が出来てくると思うのですが、1日でも早い特定許可申請のためには、まさに1日でも早く、決算書を作成して頂く必要があります。
ありがとうございます。特定建設業許可の取得を工期に間に合わせるための方法が、とてもよくわかりました。それでは、最後に横内先生の方からひと言お願いします。
インタビュー中にもお話ししましたが、決算期の変更・前倒しをして特定建設業許可を取得する方法は、裏技でもなければ、秘密情報でもありません。ましてやグレーな方法でもありません。
ところが、多くの人が、特定建設業許可を取得する前に、「無理…」と言ってあきらめてしまっている傾向にあるようです。実際に弊所のお客さまに聞いた話では、他の行政書士事務所や税理士事務所では、こんなことを教えてくれなかったという人もいるくらいです。
今日お話しした方法を採用するか否かは、社長の自由です。「そこまでして、高額案件を受注する必要はない」という人もいるでしょう。ただ、もし、御社が本当に「工期までに特定建設業許可を取得したい」とお考えであれば、今日のお話しを思い出して、実践して頂けるとよいのではないかと思います。
本日は、長い時間ありがとうございました。