【専門家に聞く】子会社や分割会社で特定建設業許可を取る|設立直後の申請実績に学ぶ

特定建設業許可の取得を検討している人のなかには、「新たに子会社や分割会社を設立し、その新会社に特定建設業許可を取らせたい」――そう考える経営者も少なくありません。たとえば、建設業許可取得を機に、グループ全体の体制を再構築したいとき。あるいは、子会社や新規法人を立ち上げて、そこで元請工事を担わせたいとき。そんなときにぶつかる壁が、「設立直後の会社に特定建設業許可を取らせるには、どうすればいいのか?」という課題です。

本記事では、建設業許可に精通した行政書士法人スマートサイド代表・横内賢郎氏にインタビューを行い、分社化・子会社化したばかりの「設立直後の法人」が特定建設業許可を取得するために必要な準備や、審査で見られるポイントを、実例とともにわかりやすく解説していただきました。特定建設業許可の取得に失敗しないためにも、ぜひ最後までご覧ください。

特定建設業許可を取得するための要件


それでは、横内先生。本日も、何卒、よろしくお願いいたします。


こちらこそ、よろしくお願いします。

本日のテーマは、「会社設立直後の特定建設業許可取得」というテーマですね。少し、余談になりますが、こういった相談は、増えている傾向にあると感じています。最近は、景気も悪く、経営の効率化や持続可能な企業運営体制の構築が求められています。そのような時代背景もあって、グループ企業同士の連携、子会社の設立は、以前よりも活発化してきているイメージです。

まず、特定建設業許可は、「発注者から直接工事を受注する元請としての立場」で「下請に5000万円以上(建築一式工事の場合は8000万円以上)の工事を発注する場合」に必要な許可です。

そして、一般建設業許可を取得する際に必要な経営業務管理責任者の要件に加えて、専任技術者の要件として「1級の資格者の在籍」、財産的要件として「欠損比率20%以下」「流動比率75%以上」「資本金2000万円以上」「純資産4000万円以上」という厳しいハードルをクリアしなければ特定許可を取得することができないことになっています。

このあたりについては、以前のインタビューでも説明していますので、ぜひ、そちらのインタビュー記事(※注)も参考にしてみてください。

(※)【専門家に聞く】一般建設業許可から特定建設業許可へ|要件と変更手続きのポイント

特定建設業許可取得について、よくある勘違い


特定建設業許可は、一般建設業許可よりもハードルが高いイメージですが、設立直後の会社が、特定建設業許可を取得することなどできるのでしょうか?


はい。設立直後の会社でも特定建設業許可を取得することは可能です。

特定建設業許可の取得について、誤解されている人もいると思うので、丁寧に説明してきますね。

まず、「特定建設業許可は、過去に工事の実績がないと取れない」と勘違いしている人がいます。結論から言うと、要件さえ満たしていれば、「過去に工事の実績がなくても」特定建設業許可を取得することはできます。また「特定建設業許可は、一般建設業許可を取ってからでなければ、取れない」という勘違いもあります。そんなことはなくて、一般建設業許可を取得することなく初めての許可で、いきなり特定建設業許可を取得することもできます。

弊所のホームページには、『工事実績ゼロの会社が特定建設業許可を取得した事例』および『はじめての建設業許可取得で、いきなり特定建設業許可を取得した事例』を解説していますので、興味のある人は、ぜひ、そちらの記事も参考にしてみてください。


すこし疑問なのですが、どうしてそのような誤解が生じるのでしょうか?


はい。おそらくですが、通常は、「一般建設業許可を取得してから特定建設業許可を取得する流れ」になるのが、一般的だからであると考えます。

先ほど、お伝えした通り特定建設業許可は「元請の立場で」「下請に5000万円以上の工事を発注する」際に必要な許可です。これまで工事の実績もなく、一般建設業許可も持っていなかった会社が、いきなり「元請として」「5000万円以上」の工事を受注することは、現実社会では、考えにくいです。そのため、通常のケースで言うと、一般建設業許可を取得して数年経ってから、特定建設業許可を取得するケースが多いのです。

とはいえ。だからと言って、「一般建設業許可を持っていないと、特定建設業許可を取れない」とか「工事の実績がないと、特定建設業許可を取ることは難しい」とは、ならないので、くれぐれも、勘違いのないようにして欲しいです。

設立直後の法人が特定建設業許可を取得した実例


「工事実績がなくてもOK」「一般許可を持っていなくてもOK」という今の流れで言うと、「設立直後の会社であっても要件さえ満たしていれば、特定建設業許可を取得することができる」ということになるのですね。


はい。おっしゃる通りです。

あくまでも

  • 経営業務管理責任者がいること
  • 1級の技術者がいること
  • 4つの財産的要件を見たいしていること

といった特定許可を取得するための要件を満たしていることが前提ですが、会社設立直後でも特定建設業許可を取得することはできます。会社設立直後に特定建設業許可を取得するというようりも、「特定建設業許可を取得するために会社を設立する」という言い方の方が正確かもしれません


「特定建設業許可を取得するために会社を設立する」とは、どういうことですか?


私の事務所に、ご相談に来る人の多くは、「会社を設立して、その後に、特定建設業許可を取得したい」という相談ではなく、「そもそも、特定建設業許可を取得するにはどうすればよいか?」「特定建設業許可を取得する会社を設立する方法はあるか?」といったように、特定建設業許可を取得することが大前提で、相談に見える経営者の人が多いです。

よりわかりやすく説明すると、「会社を設立すること」が目的なのではなくて、「会社設立は、特定建設業許可を取得するための手段に過ぎない」という感じです。

これは実際にあったケースですが、とある会社の経営者から、「電気工事業」の特定建設業許可取得の相談がありました。このお客さまは、規模の大きい工事の受注が迫っているため、一般建設業許可ではなく、特定建設業許可を取得することを希望していました。通常ですと、「その会社で、どうやって特定建設業許可を取得するか?」を検討することになるのですが、株主の承諾や役員会議の結果を待っていたのでは、半年以上かかってしまい遅すぎるとのことでした。そこで、特定建設業許可を取得することができる条件を備えた子会社を設立し、設立後にすぐに、特定建設業許可を取得するという方法を選択しました。

『会社設立が5月末。特定許可の申請が7月上旬。特定許可の取得が8月初旬。』というように、会社設立後2か月足らずで、東京都の特定建設業許可の取得に成功しています。

また、別の事例では、会社を分割して、分割承継会社に特定建設業許可を承継させた事例もあります。この会社は、「建設業部門」と「それ以外の部門」を切り分けて、会社全体をスリム化し、業務効率化を図る目的で、会社分割を行ったという経緯があります。会社分割の際には、認可申請という特別な手続きを経ないと、許可番号を引き継ぐことができないのですが、分割承継会社に、特定建設業許可を承継させることができました。

設立直後の会社が、特定建設業許可を取得する際のポイント


法人を設立したり、既存の会社を分割したりして、特定建設業許可を取得することができるのは理解できましたが、申請の際の、ポイントはありますか?


はい。

いままで話してきたケースでは、いずれも、特定建設業許可を取得するための要件を満たしていることが前提です。「経営業務管理責任者の要件を満たしていません」とか「2級の資格者しかいません」というのでは、特定許可を取得することができません。

申請の際のポイントとしては、設立後や分割後に、特定許可を取得することができるようにするため、「資本金2000万円以上かつ資本準備金2000万円以上」にするか「資本金4000万円以上」にして、法人を設立することが重要です。

通常の場合、特定建設業許可の取得要件である「財産的要件」は、直近の確定した決算の貸借対照表の数字で判断することになります。特定建設業許可取得の際には

  • 欠損比率25%以下
  • 流動比率75%以上
  • 資本金2000万円以上
  • 純資産4000万円以上

という条件が必要で、この条件は、申請時点で確定している「直近の決算の数字」で満たしている必要がありません。しかし、会社設立直後や会社分割直後の場合には、決算をまだ迎えていないため、いわゆる「決算書」というものが、まだありません。実際には、「設立直後の決算書」を用意して、申請書類と一緒に提出する必要があるのですが、その際にポイントになるのが、「資本金2000万円以上」「純資産4000万円以上」を満たしているか否かです。

設立時には、「欠損比率」も「流動比率」もないので、この2つは無視してしまって構いません。しかし、「資本金」および「純資産」については設立時点で満たしていないと、設立直後に特定建設業許可を取得することができません。もちろん、1期目、2期目と期をまたいで、財務状況を整えていくという方法もありますが、設立直後・分割直後に特定建設業許可を取得したいのであれば、「資本金2000万円以上かつ資本準備金2000万円以上」にして会社を設立するか?もしくは「資本金4000万円以上」にして会社を設立するか?のどちらかが必要であることを覚えておいてください。

なお、申請の際には、資本金は登記簿謄本で確認され、資本準備金は定款で確認されます。


資本金と資本準備金については、よく理解できました。その他に、手続き上、注意すべき点はありますか?


注意すべき点は2つあります。

まずは、法人を設立する際の、登録免許税についてです。これは、司法書士の先生の専門分野ですが、資本金2000万円の会社を設立する場合と、資本金4000万円の会社を設立する場合とで、法務局に支払う登録免許税が変わってきます。資本金2000万円の会社を設立する場合の登録免許税は15万円、資本金4000万円の会社を設立する場合の登録免許税は28万円となり、13万円程度の差が出てきます。

登録免許税は、法務局に支払う手数料ですので、法人設立の際に、必ず必要な出費です。初期費用に13万円の違いがあることに注意が必要です。

さらに、法人住民税のうち均等割については、資本金1000万円以下の場合は年7万円であるのに対して、資本金1000万円以上1億円以下の場合は年18万円になります。資本金2000万円と4000万円とでは、いずれも年18万円になりますが、資本金の額によって、法人住民税が変わってくる点については、頭の中に入れておくとよいと思います。

いずれも、司法書士の先生や税理士の先生の専門分野ですので、詳細が気になる人は、ぜひ、顧問税理士や知り合いの司法書士の先生に直接確認をしてみてください。


ありがとうございました。そろそろお時間ですので、最後にひとことお願いできますでしょうか?


はい。

建設業を営むみなさんにとって、「特定建設業許可を新設の子会社や分割会社に取らせたい」と思ったとき、その第一歩は決して軽くありません。「顧問税理士に相談すればよいのか?司法書士の先生に相談すればよいのか?」ということで、迷う人もいることでしょう。設立直後に許可を取得するには、どのような方法で法人を設立すればよいのかが、非常に難しく、みなさんが不安や迷いを抱えるのは当然のことです。

しかし、特定建設業許可取得のための条件を理解し、ひとつひとつの書類を事前に準備して行けば、法人設立直後の許可の取得も決して不可能な道ではありません。むしろ、グループ全体の戦略を踏まえた“計画的な許可取得”こそが、これからの時代に求められる経営判断のひとつだと感じます。

弊所にご相談に見える経営者のみなさんは、「人材確保」「下請からの脱却」「技術継承」「元請としての競争力強化」など、さまざまな課題を抱えていらっしゃいます。そうしたなかで、会社の形を柔軟に変えながら前に進もうとされる取り組みには、大変大きな意味があると考えています。

この記事が、同じような悩みを抱える方々にとって、少しでもヒントや安心につながるものであれば幸いです。最後までご清聴頂きありがとうございました。

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