建設業許可を取得する際、避けて通れないのが「専任技術者」の要件。どのような資格や実務経験が必要なのか、自社の人材がその基準を満たしているのか、判断に悩む経営者も少なくありません。特に中小建設会社では「この社員でも大丈夫?」「実務経験はどう証明する?」といった疑問や不安の声が多く聞かれます。
本記事では、建設業許可申請の実務に精通した専門家である行政書士法人スマートサイドの代表・横内先生にインタビューを実施。専任技術者の基本的な要件から、よくある誤解やつまずきやすい事例まで、実際のケースを交えて分かりやすく解説しています。
「許可が取れるかどうかのカギは、ここにあったのか」と納得できるはずの実務的ヒントが詰まった内容です。これから建設業許可を目指す方は、ぜひ参考にしてください。
「専任技術者の要件」とは、何か?
それでは、横内先生、本日は、「専任技術者」というテーマでお願いします。
はい。本日もよろしくお願いします。今日のテーマは建設業許可の要件である「専任技術者」についてですが、まずは、「専任技術者の実体的要件」について、詳しくお話しをさせて頂きたいと思います。「専任技術者の実体的な要件」を満たしていることを前提に、「その要件をどのように証明して行くか?」という点が議論になります。
このように、2つに分けて考えるべきかどうかは、個々人の判断によりますが、すくなくとも、専門家としての立場からいうと、分けて考えた方が整理しやすいです。よく、要件を満たしていないのに、「どんな書類を準備すれば許可を取ることができますか?」という質問をしてくる人がいます。しかし、これは検討の順番が逆なのです。
まずは、「専任技術者の要件を満たしているのか?」についての検討が先です。そのうえで、「その人が専任技術者の要件を満たしているのであれば、どういった書類や資料で証明して行くのか?」という話になるわけです。仮に、その人が専任技術者の要件を満たしていないのであれば、その人に関する書類や資料をどんなに集めたところで、建設業許可を取得することはできません。その人ではない別の人を専任技術者にするしかありません。
このように、専任技術者の要件を満たさない人の資料や書類をどんなに集めたところで、建設業許可を取得することはできないのですから、「まずは、専任技術者の要件を満たしているのか否かの判断をしっかりしてから、次に進みましょうね」というのが私の考えです。そのため、本日は、「どういう人が専任技術者の要件を満たすのか」という点についてお話しし、「専任技術者の要件を証明するために必要な資料」や「証明方法」について、次回(※注)、お話しをさせて頂ければと思います。
(注)【専門家に聞く】専任技術者の証明書類、どこまで揃えれば大丈夫?実務のポイントを解説
承知しました。それでは、早速「専任技術者の要件の中身」について、進めて頂けますでしょうか?
はい。
そもそも、専任技術者とは「建設工事の請負契約の締結及び履行の業務に関する技術上の管理をつかさどる者」を言います。建設業許可を取得するには、専任技術者を営業所に配置しなければなりません。当然のことながら、専任技術者は、会社に常勤していることが必要です。この点については、経営業務管理責任者の要件と一緒です。会社に常勤していない人の名義を借りて、あたかも常勤しているかのごとく装って、建設業許可を取得することはできません。
そして、この専任技術者になるためには、
- (1)該当の資格を保有していること
- (2)特殊な学科を卒業後、3~5年の実務経験があること
- (3)10年の実務経験があること
のいずれかに該当していなければなりません。
専任技術者になるための「資格」
「資格」「指定学科」「実務経験」の話ですね。
はい。「資格」「指定学科」「実務経験」の話です。1つずつ見ていきますね。
まず、1つめの「資格」です。この点については、多くの人がご存知かと思いますが、専任技術者になるには、「資格」があると、有利です。例えば、1級建築士の資格を持っていると、建築工事、大工工事、屋根工事、タイル工事、鋼構造物工事、内装工事の6つの工事業種の専任技術者になることができます。
また、1級建築施工管理技士の資格を持っていると、建築工事ほか、17個の工事業種で専任技術者になることができます。その他にも、電気工事施工管理技士や管工事施工管理技士や電気通信工事施工管理技士といった資格を保有していると、それぞれ、電気工事、管工事、電気通信工事の専任技術者になることができます。
たとえば、私の事務所で実際に建設業許可の新規取得に成功した事例として「1級防水施工技能士の資格を使って防水工事の建設業許可を取得した事例(※注)」や「第1種電気工事士の資格を使って電気工事業の取得に成功した事例(※注)」などがあります。
(注)新規会社設立後の建設業許可取得方法-1級防水施工技能士の資格を活かした成功事例
(注)第一種電気工事士の資格を使って、建設業許可(電気工事業)の取得に成功しました!
資格を持っていると実務経験の証明をしなくても、専任技術者になることができるのですね。
おっしゃる通り、上記のような資格を持っていれば、実務経験を証明しなくても、専任技術者になることができます。
ただし、実務経験の証明が必要な資格もあります。たとえば、第2種電気工事士の資格で、電気工事の専任技術者になるには、免許交付後3年間の実務経験が必要ですし、給水装置工事主任技術者の資格で、管工事の専任技術者になるには、免許交付後1年間の実務経験が必要です。
このように、資格があったとしても、一定年数の経験が必要なものもありますが、大体の資格は、その資格を持っているだけで、専任技術者になることができるのです。
ということは、社内に資格保有者がいるか否かが、建設業許可取得にとって、重要ということになりそうですね。
はい。専任技術者の要件を満たすには、資格があると、話が早いので、もし、みなさんの会社が建設業許可を取得したいと考えたなら、まずは、社内に資格者がいないか否かを検討してもらえるとよいと思います。
ただし、資格者がいないからと言って、建設業許可を取得できないわけではありません。資格者が見つからなかったら、次は、「特殊な学科の卒業生がいないか」を確認してみてください。
「指定学科の卒業経歴」を利用した建設業許可の取得
指定学科の話ですね。
はい。資格者の次に、検討すべきは、指定学科の卒業経歴がある人がいないかです。
指定学科とは、土木科や建築科や機械科や電気科など、建設工事に関連する学科のことを言います。残念ながら、普通科は指定学科に該当しません。この指定学科の卒業経歴がある人は、3年ないしは5年の実務経験を証明することによって、専任技術者になることができます。
たとえば、建築科は「内装工事」の指定学科に該当します。そのため、高校の建築科を卒業している人は内装工事の5年の実務経験を証明することによって、内装工事の専任技術者になることができます。大学の建築科であれば、3年間の内装工事の実務経験を証明することによって、内装工事の専任技術者になることができます。
大学卒業と高校卒業によって、必要とされる実務経験の期間が異なるのですね。
そうです。
大学の指定学科の卒業の場合は、実務経験の証明期間は3年で足ります。高校や専門学校の指定学科の卒業の場合は、実務経験の証明期間は5年になります。このように、特殊な学科の卒業経歴があると、3年~5年の実務経験の証明をすることによって、専任技術者になることができます。そのため、資格保有者がいなかったとしても、指定学科の卒業生がいないか否かを確認してください。仮に、指定学科の卒業経歴のある人が社内にいた場合には、その人を専任技術者に抜擢して、建設業許可を取得するという方法が考えられます。
たとえば、うちの事務所では、
- 機械工学科の卒業経歴を使って、管工事の建設業許可を取得することに成功した事例
- 専門学校の建築科の卒業経歴を使って、内装工事の建設業許可を取得することに成功した事例
- 大学の工学部の卒業経歴を使って、とび工事の建設業許可を取得した事例
- 専門学校のテレビ電気科の卒業経歴を使って、機械器具設置工事の専任技術者になることができた事例
など、結構な割合で、指定学科の卒業経歴を使って、専任技術者の要件を証明することができた事例があります。なので、指定学科の卒業経歴を使った建設業許可取得を大変得意としています。
ちなみに、「どの学科が、どの工事の指定学科に該当するか?」は、どうやって調べればよいのでしょう。
よいご指摘です。
社長ご自身や会社の社員が卒業している学科が、指定学科に該当するか否かは、まずは、許可行政庁が発行する手引きで確認するのが一番です。全部で100以上の学科がありますので、もしかしたら、該当の学科が掲載されているかもしれません。また、仮に、手引きに掲載されていなかったとしても、許可行政庁に「○○科という学科が指定学科に該当しないか?」という照会をしてみることをお勧めします。
なぜなら、手引きに掲載されている学科は、限定列挙ではなく、例示列挙にすぎないからです。時代の流れとともに、ひと昔前では考えられなかったような学科も誕生しつつあります。手引きには、そういった学科がすべて網羅的に掲載されているわけでないので、少しでも、建設関連の学科に該当する可能性がある場合には、積極的に許可行政庁に確認を取ってみてください。
たとえば、東京都庁に連絡をすれば、調べてくれるということですか?
さすがに、電話連絡で調べてくれることはないようです。
自分の学科が「指定学科に該当するか」確認をしたい場合には、卒業証明書・履修証明書などを建設業課に持参して、「この学科が○○工事の指定学科に該当しないか教えてください」と言えば良いのです。その場で判断ができない場合には、後日、回答をもらうことができます。
専任技術者になるための最後の砦「10年間の実務経験」
なるほど、とても良い話を聞きました。それでは、仮にですが、指定学科に該当しなかった場合は、10年の実務経験を証明するしかないということになるのですね。
はい。
社内に資格者がおらず、指定学科の卒業生もいない場合には、10年の実務経験を証明するしか方法がありません。10年の実務経験を証明して建設業許可を取得するという方法は、最後の砦ですが、意外とそのような方法で建設業許可を取得する会社は、少なくありません。うちの事務所でも、管工事、内装工事、とび工事といった業種で10年の実務経験の証明に成功しています。たしかホームぺージに成功実績を掲載(※注)しているはずですので、興味のある人は、ぜひ、そちらのページも見て頂けるとよいと思います。
(注)
- 【成功事例】管工事の建設業許可取得。実務経験10年の証明を見事にクリア!手法を解説!
- 実務経験10年で、内装工事の東京都建設業許可を取得。成功事例の裏側を詳細解説!
- もう悩まない…10年の実務経験を活かす!建設業許可取得の成功プロセスを実例をもとに専門家が解説
10年の実務経験を証明して、建設業許可を取得するのは、難しいと聞きます。横内先生の事務所で、これだけ沢山の許可取得事例があるということは、何か「コツみたいなもの」があるのでしょうか?
はい。たしかに10年の実務経験の証明がうまく行かないといって、相談に来られるお客さまは多いです。
建設会社からの相談もそうですが、最近では特に、デザイン会社や設計会社や不動産会社やイベント会社など、建設業メインの会社と異なる会社からの問い合わせが増えています。なかには、「税理士の先生や他の行政書士の先生に依頼したけど、ダメだった」みたいなことをおっしゃる人もいます。ひとえに経験と専門知識の違いといってしまえばそれまでですが、ポイントとしては、「実体的な要件」と「証明方法」を区別して考えるというのが、お勧めです。
インタビュー冒頭にお話ししたように「実体的な要件」を満たしていない人の書類をどんなに集めたとしても、建設業許可を取得することはできません。10年の経験がない人について、過去の書類やら資料やらを提出してみたところで、どうにもならないのです。
お客さまのなかには、「出せるものは何でも出します。なので、必要書類を教えてください。」という人がいます。しかし、必要書類以前に、「その人が本当に10年の実務経験を積んでいるのか否か」を先に検討しなければなりません。本当に「会社に10年以上勤めている」ということであれば、そこから、「書類はどんなものを準備していけばよいか?」という話になるわけです。
そろそろ、お時間ですので、今回のまとめに入っていただけますでしょうか?
はい。今回のインタビューでは、専任技術者の実体的な要件について、お話しをさせて頂きました。ポイントしては、まずは、「(1)資格者がいないか」を検討し、資格者がいなければ「(2)指定学科の卒業生がいないか」を検討し、指定学科の卒業生もいないのであれば「(3)10年の実務経験がある人を探す」というものでした。
指定学科については、手引きに記載があるだけで100を超えます。また、そこに記載されている学科が全てではないので、許可行政庁に照会を掛けることの重要性について、お話ししました。
10年の実務経験については、必要な書類や準備すべき資料を考える前に、実際にその人が「本当に10年以上勤務しているのか?」「10年間の実務経験があるのか?」という実体的な要件を満たしているか否かが重要であるというお話しをしました。
このあたりの整理ができているか否かで、建設業許可取得の可能性は、大きく変わってきます。まずは、頭の整理のために、(1)(2)(3)について、よく調べてみてください。
次回のインタビュー(※注)では、実務経験の証明の仕方について、詳しくお話しをさせて頂きたいと思います。本日は、ありがとうございました。