建設業界で仕事を広げていくには、「元請として工事を請け負うのか」「それとも下請として関わるのか」「どのような工事規模を扱うのか」「支店・支社を設置するのか」によって、取得すべき建設業許可の種類が変わってきます。しかし、「一般建設業許可と特定建設業許可の、どちらを取ればいいのか分からない」「知事許可と大臣許可の違いは?」「そもそも、自分の会社はどの手続きになるのか?」といった基本的な疑問で立ち止まっている経営者の方も少なくありません。
今回は、行政書士法人スマートサイドの代表・横内先生が、建設業許可の“基本のキ”をわかりやすく整理。一般と特定の違い、知事許可と大臣許可の違い、さらに「般特新規」や「許可換え新規」といった申請の種類まで、実務の現場でよく聞かれるポイントを丁寧にお伝えします。
制度の全体像をしっかり理解しておくことによって、安心して手続きを進めることができます。また、許可取得までの道のりをスムーズにする大きな一歩にもなります。許可取得を検討中の方はもちろん、すでに許可を持っている方にも役立つ情報をお届けします。
一般建設業許可と特定建設業許可
それでは、横内先生。本日は、「一般と特定」「知事と大臣」といったような建設業許可の種類をテーマにお話しをお願いします。
はい。よろしくお願いします。
まず、今日の話は、これからはじめて建設業許可を取ろうという人にも役立ちますが、すでに、建設業許可を持っている人にも大変、有益な情報になると思います。多くの会社が「知事許可の一般建設業許可」を持っていることと思いますが、「特定許可はとれないのか?」「大臣許可は必要ないのか?」というように、許可の種類を変えることを検討している人は、ぜひ、今日のインタビューを参考にして欲しいと思います。
まずは、一般建設業許可と特定建設業許可の違いについてです。
通常、「建設業許可」という場合、「一般建設業許可」を指していることが多いです。多くのみなさんが「建設業許可を取得したい」と言うときの許可は、「一般建設業許可」のことを言います。一般建設業許可を持っていると、500万円以上の工事を請負うことができるようになります。
最近では、500万円以上の工事かどうかに関係なく、ゼネコンや元請会社から「建設業許可はありますか?」と確認されるケースが増えています。これは、「この会社はきちんと許可を持っている信頼できる会社かどうか?」や「法令を守っていないグレーな取引を避けたい」といった理由から、発注側が慎重になっているためです。
以上が一般建設業許可についての説明です。
一般建設業許可については、よくわかります。それでは「特定」建設業許可とは、どういった種類の許可を言うのでしょうか?
はい。一般建設業許可に対して、用いられるのが特定建設業許可です。
特定建設業許可は、「発注者から直接工事を受注する元請の立場」で、「下請に5000万円以上(建築一式工事は8000万円以上)の工事を発注する」際に、必要になる建設業許可です。「元請の立場で」「下請に5000万円以上」というのが、キーワードです。
たとえば、元請として工事を受注することがないのであれば、特定建設業許可を取得する必要はなく、一般建設業許可で大丈夫です。また、仮に、元請として工事を受注しても、下請に5000万円以上の工事を発注しないのであれば、一般建設業許可のままで大丈夫です。
特定建設業許可は、一般建設業許可に対して、規模の大きい工事を受注する際に、必要になる許可です。そのため、一般建設業許可を取得するよりも、要件が厳格に定められています。たとえば、専任技術者は「1級の資格者」である必要がありますし、財産的要件についても「欠損比率20%以下」「流動比率75%以上」「資本金2000万円以上」「純資産4000万円以上」の4つを満たしていなければなりません。この点については、以前のインタビューでもお話ししていることですので、詳細を知りたい人は、ぜひ、以前のインタビュー記事(※注)も参考にしていただければと思います。
(注)【専門家に聞く】一般建設業許可から特定建設業許可へ|要件と変更手続きのポイント
一般建設業許可と特定建設業許可の違いは、「工事の金額による違い」と理解してよいのでしょうか?
はい。
一般許可が必要になるか?特定許可が必要になるか?は、工事の金額による違いと理解して頂いて構いません。しかし、工事の金額だけで判断できるわけではありません。たとえば「1億円の工事を受注する」という場合。この情報だけでは「一般でよいのか?特定が必要か?」についての判断はできないのです。
下請として1億の工事を受注するのであれば、一般建設業許可で大丈夫です。下請として工事を受注するのであれば、その額が10億円の場合にも、100億円の場合にも、一般建設業許可があれば、大丈夫です。
では、「元請として1億円の工事を受注する」場合は、どうでしょう?この場合、下請を使わず、自社のみで施工するのであれば、一般建設業許可で大丈夫です。しかし、発注者から元請として受注した1億円の工事を、下請を使わずに完成させるというのは、まれであると思います。通常は、下請会社や協力会社に工事に参加してもらって、目的物を完成させることでしょう。このようなケースで、下請に5000万円以上、建築一式工事の場合は8000万円以上の額を発注する場合には、特定建設業許可が必要になるのです。
通常は、「一般建設業許可を取得することが多い」と考えてよいのでしょうか?
はい。通常は、一般建設業許可を取得する会社が多いです。
はじめての建設業許可で、特定建設業許可を取得することができないわけではありません。許可要件さえ、きちんと満たしていれば、はじめての申請で特定建設業許可を取得することは可能です。ただし、先ほど、お伝えしたように特定建設業許可は、比較的規模の大きい工事を想定しています。はじめて建設業許可を取得する会社が、そのような規模の大きい工事を受注するというケースは、滅多にないため、通常は、一般建設業許可の取得から検討する会社が多いのです。
なお、弊所では、過去に工事の実績がなくても、はじめての許可でいきなり特定建設業許可を取得した事例をホームぺージ上で公開していますので、興味のある方は、そちらのページもご覧いただければと思います。
般特新規申請について
一度取得した「一般建設業許可」を「特定建設業許可」に変更することも、できるわけですよね。
はい。
一度取得した「一般建設業許可」を「特定建設業許可」に変更することもできます。その際に必要になる申請を「般特新規申請」と言います。この場合、「一般」を「特定」に『変更する』という変更手続きではなく、「特定」を『あらたに取得する』という新規の許可取得手続きになります。そのため、行政庁に支払う法定の手数料も、新規取得の場合と同じ9万円が必要です。
一般建設業許可を特定建設業許可に切り替えるには、「1級の資格者が在籍していること」「直近の確定した決算で4つの財産的要件を満たしていること」が必要です。この条件を満たしている場合には、一般建設業許可を特定建設業許可に切り替えることができますので、規模の大きい工事案件が控えている人は、ぜひ、自社の財務状況など、特定建設業許可を取得するための要件を満たしているか、確認をしてみてください。
知事許可と大臣許可
それでは、「知事許可」と「大臣許可」の違いは、何になるのでしょうか?
はい。
「知事許可」と「大臣許可」の違いは、端的に言うと、営業所の所在地の違いになります。1つの都道府県内に営業所がある場合が知事許可で、複数の都道府県にまたがって営業所が存在する場合が大臣許可です。
たとえば、東京都新宿区にのみ営業所がある建設会社は、東京都知事許可を取得することになります。東京都新宿区のほかに、東京都足立区にも営業所がある建設会社の場合も、おなじく東京都知事許可を取得することになります。営業所が2つあっても、同じ東京都内に存在している以上、東京都知事許可に該当するのです。これに対して、東京都新宿区に本店があり、神奈川県横浜市に支店があるような会社の場合、大臣許可を取得することになります。
大臣許可が必要な会社は、「東京都」「大阪府」「福岡県」「宮城県」というように全国展開する会社や、全国30か所以上に拠点を置く大規模会社というようにイメージして頂くとわかりやすいと思います。大臣許可で必要な社内体制は、
- 本店に「経営業務管理責任者」と「専任技術者」が常勤していること
- 支店に「令3条の使用人」と「専任技術者」が常勤していること
という体制が必要になります。令3条の使用人とは、簡単に言うと「支店長」や「支社長」のことですが、各営業所に「令3条の使用人」と「専任技術者」を配属しなければならないところに大きな特徴があると言えます。
たとえば、東京都知事許可の会社が、埼玉県内に支店を設置する場合、大臣許可が必要になるのですか?
はい。おっしゃる通りです。
たとえば、東京都の品川本社に加えて、埼玉県の浦和支社を設置するような場合。東京都知事許可を大臣許可に切り替えなければなりません。知事許可を大臣許可に切り替える手続きを「許可換え新規申請」と言います。「一般」を「特定」に切り替える時の「般特新規申請」と同様に、『許可を変更する手続き』というより『あらたに大臣許可を新規で取得する手続き』になります。大臣許可を取得することになるため、行政庁に支払う手数料は15万円かかることになります。
ところで、「一般」から「特定」にした場合や、「知事」を「大臣」にした場合の、許可番号はどうなるのでしょうか?いちいち許可番号が変更になると、名刺やホームぺージの記載も変えなければならなくなるため、面倒です。
よい質問ですね。
「一般」から「特定」に変わる「般特新規申請」の場合、許可番号は、変わりません。今までの番号を維持することができます。しかし、「知事」から「大臣」に変わる「許可換え新規申請」の場合、許可番号は、変わります。今までの番号を維持することはできません。これは、建設業の許可番号が、都道府県や地方整備局単位で管理されているからです。
「一般・特定」「知事・大臣」の許可申請事例
横内先生の事務所では、実際にどのような事例を取り扱っているか、ご紹介いただけますか?
はい。私の事務所で多いのは、一般建設業許可を特定建設業許可に切り替える「般特新規申請」の事例です。
例えば、
などが挙げられます。これらはいずれも、規模の大きい工事を受注するために、いま持っている一般建設業許可を特定建設業許可に切り替えることができた成功事例です。
また、大臣許可に関しては、もともと大臣許可を持っていた建設会社を、東京都知事許可に切り替えるための許可換え新規申請を手掛けたこともあります。企業内での建設業グループとそれ以外のグループの切り分けを行い、よりスリムで効率的な会社運営を行いたいという希望のもと、建設業部門を東京支店に集約させた結果、大臣許可を東京都知事許可に切り替えたという、とても面白い事例のひとつです。
その他にも、全国30拠点に営業所を構える大規模会社から「令3条の使用人・専任技術者に関する変更届の管理業務」などを承っています(※注)。
(注) 【専門家に聞く】全国30拠点以上の建設会社に学ぶ|令3条の使用人と専任技術者の管理・変更届の実務
さまざまな、手続きを申請されているのですね。
はい。数え上げるときりがないので、このへんにしておきますが、建設会社の社長に知っておいて欲しい注意点がいくつかあります。
まず1つ目として「知事許可=一般許可」「大臣許可=特定許可」ではない、ということです。以前、私の事務所に相談に見えたお客さまの中に、「知事許可=一般許可」「大臣許可=特定許可」という勘違いをされている人がいましたが、これは、明確な間違いです。
たとえば、東京都知事許可を持っている会社でも、内装工事の特定許可を持っている会社はいます。また、国土交通大臣許可を持っている会社でも、とび工事の一般許可を持っている会社はいます。「知事許可」と「一般許可」が紐づいていて、「大臣許可」と「特定許可」が紐づいているわけでなはないのです。
また、大臣許可業者の場合、「営業所ごとに持っている許可の種類が違う」というのは、よくあることです。例えば、東京営業所で持っているのは「電気工事の特定許可」ですが、埼玉営業所で持っているのは「管工事と電気通信工事の一般許可」というように、営業所ごとに許可業種や許可の種類が異なることは、むしろ普通にあります。
これは、「どの資格を持っている技術者を、どの営業所ないしは支店に配置するか?」という問題にかかわってくるので、大臣許可の取得を目指している場合には「専任技術者が取得している国家資格の種類」や「各営業所への配置状況」も考慮する必要があるのです。
さらに、先ほどお話しした「許可換え新規申請」は、「知事・大臣」だけではありません。たとえば、東京都内に本店があった東京都知事許可業者が本店を千葉県に移転したような場合には、東京都知事許可を千葉県知事許可に変更しなければなりません。その際に必要な手続きも「許可換え新規申請」になりますので、他県に本店を移転する予定のある人は、ぜひ、覚えておいて頂ければと思います。
さまざまな情報をわかりやすく整理してくださりありがとうございます。それでは、お時間ですので、最後にひとことお願いします。
今回のインタビューでは、建設業許可の「一般と特定」「知事と大臣」といった基本的な違いについて、できるだけ実務に即して整理してお伝えしました。制度の仕組みは一見ややこしく感じるかもしれませんが、自社の事業規模や今後の展開、営業所の所在地などに照らし合わせると、必要な許可の方向性が見えてくるはずです。
「うちは一般でよいのか?」「そろそろ特定に切り替えるべきか?」「大臣許可にした方が将来的に安心か?」そういった疑問を感じていた方にとって、今回の記事が少しでも整理のきっかけになっていれば幸いです。
建設業許可は「取得すれば終わり」というものではありません。むしろ、許可をどう活かし、どのように次の戦略に結びつけていくかが、これからの経営にとって極めて重要です。たとえば、受注できる工事の幅を広げる、元請案件に挑戦する、あるいは営業エリアを拡大する――こうした判断の裏には、必ず許可の選択と活用が関わってきます。
今回の記事が、みなさんの会社にとって「次にどんな許可が必要なのか」「今の許可で十分なのか」といった判断を見直すきっかけとなり、経営の方向性を定めるうえでの一助となれば幸いです。