建設業許可を取りたいけれど、「なるべく費用を抑えるために、行政書士には頼らず自分で申請したい」とお考えの方は少なくありません。インターネット上には情報も多く、一見、自力でも申請できそうに見えます。しかし実際には、「書類のどこから手をつけていいか分からない」「役所に行ったら一からやり直しになってしまった」「自分の会社が要件を満たしているのかすら不安」といった声が、聞こえます。
今回は、そうした「自分で建設業許可を取りたい」と考えている方向けに、申請実務の現場を熟知する行政書士法人スマートサイド代表の横内先生に、失敗しないために押さえておくべき3つのチェックポイントをお話しいただきます。
専門家に「依頼する・しない」に関わらず、知っておくと安心できる基礎知識や注意点を、わかりやすく解説しています。これから申請に挑戦しようとしている方も、一度挫折してしまった方も、ぜひ最後までご覧ください。
建設業許可を自分で申請したいとお考えの人へ
それでは、横内先生。本日も、よろしくお願いいたします。
こちらこそ、よろしくお願いします。本日のテーマは、「建設業許可を自分で申請したい人に向けた失敗しないためのポイント」ですね。このテーマでお話しするにあたって1つだけ、前提をお伝えしておきます。弊所が「東京都の文京区に事務所を構えていること」および、「東京都知事許可を取得したいというお客さまからのご依頼が多いこと」から、今回のテーマも、東京都の建設業許可を自分で申請したい人に向けて、お話しをさせて頂きます。
大臣許可や県知事許可を取得したい人にとっては、もしかしたら、対象外のことがあるかもしれません。その点については、あらかじめご了承ください。
承知しました。東京都の建設業許可という前提で、話を続けてください。
はい。
建設業許可を取得するメリットは、なんと言っても500万円以上の工事を「請負・施工」できることにあります。一方、デメリットを言うと、
- 書類の作成が難しい
- 手続きが分かりにくい
- 行政書士に依頼するとお金がかかる
という点があると思います。「誰でも簡単に申請して許可がもらえる」と良いのですが、建設業許可の取得は、それほど、簡単なものではありません。また、東京都は、他県と比べて、建設業許可の審査が厳格であることでも有名です。神奈川県や千葉県と比べると、必要書類の量も多く、細かくチェックされる印象です。そういった理由から、多くの建設会社が、申請手続きを行政書士事務所に依頼しているわけです。うちの事務所も大変多くの建設会社さまからのご依頼をいただき、許可を通してきた実績があります。
ただ、中には、行政書士事務所に依頼するとお金がかかるので、できることなら自社で申請したいとお考えの人もいるでしょう。そういった人にお勧めするのが、以下の順番で手続きを進めていく方法です。
まず、1つ目が「実体的要件のチェック」、2つ目が「申請書類の準備」、3つ目が「どうにもならなかった場合の対処法」という順番です。
実体的な許可要件のチェック
1つ目の「実体的要件のチェック」とは、建設業許可要件のチェックのことですか?
はい。その通りです。
1つ目の「実体的要件のチェック」とは、建設業許可を取得するための要件になっている「経営業務管理責任者」と「専任技術者」の要件を備えているか?という確認作業のことです。
よくある質問として、「建設業許可を取得するには、どういった書類が必要ですか?」というものがあります。しかし、この考え方は、あまりよくありません。許可申請手続きに失敗する人の典型と言って良いかもしれません。まず考えるべきは「どういった書類が必要か?」ではなく、「自分の会社が許可要件を満たしているか?」なのです。「許可要件を満たしている」という前提があって、「要件を充足していることを証明するために何の書類が必要か?」という順番で考えていかなければならないのです。
なるほど。「準備する書類」を先に考えるのではなく、「許可要件を満たしているか?」ということを先に検討すべきということですね。
はい。
建設業許可を取得するには「経営業務管理責任者」と「専任技術者」が必要です。
「経営業務管理責任者」になるには
(ア)申請会社の常勤の取締役であること
(イ)取締役もしくは個人事業主としての経験が5年以上あること
(ウ)その間、建設業をおこなっていたこと
の3つを全て充足する必要があります。
「専任技術者になるには」
(1)建築士や施工管理技士などの資格者
(2)特殊な学科の卒業経歴+3~5年の実務経験
(3)10年の実務経験
のいずれかを充足する必要があります。
たとえば、「個人事業主や取締役としての経験が2年しかない」という場合、経営業務管理責任者の要件のうち(イ)を満たしません。そういった人が、どんなに「どういった書類を集めればよいのだろうか?」と考えたところで、そもそも、実体的な許可要件を満たしていないのですから、許可など取れようはずがないのです。
すこし厳しい言い方になってしまいますが、建設業許可を取得できるか否かは、許可要件を満たしているか否かにつきます。どんなに「許可が欲しい」と言ってみたところで、先ほど述べた(ア)(イ)(ウ)の条件の全て、および、(1)(2)(3)の条件のいずれかを満たしていなければ、建設業許可を取得することはできないのです。
なので、もし、自分の会社が建設業許可の要件、つまり「経営業務管理責任者」と「専任技術者」の要件を満たさないようであれば、許可取得をあきらめるか、外部から経験者を採用するしか方法がありません。「建設業の許可要件を満たしているか?」という実体的要件を確認することは、それほど大事なことなのです。
許可要件の確認が大事なことは、よくわかりました。ところでネットを見てみると「建設業許可取得の裏技」などといった記事を見かけます。実体的要件を満たしていなかった場合、裏技的な方法で建設業許可を取得することはできるのでしょうか?
私も「建設業許可取得の裏技」という記事をインターネット上で拝見することがあります。
しかし、「裏技」というのは、存在しないものと思って頂いた方が良いでしょう。例えば、(ア)の「申請会社の常勤の取締役」という条件についてですが、「取締役」ではなく「執行役員」でもよいことになっています。また(2)の「特殊な学科の卒業経歴」については、東京都が公表している学科の一覧に含まれていない学科でも、「特殊な学科」に含まれるケースがあることは事実です。
それらを「裏技」といえば「裏技」になるのでしょうが、私は、裏技とは思っていません。むしろ、弊所では、「いまいった方法で、建設業許可を取得しているケース」がたくさんあるわけですから、私にしてみれば、「表技」といってよいかもしれませんね。グレーな方法でもなければ、レアケースというわけでもないので。そこのところは、くれぐれもお間違いのないようにしていただき、「裏技」という文言に一喜一憂しないようにしていただければと思います。
申請書類の準備
横内先生のような専門家に言わせると「裏技」ではなく、「表技」だったのですね。それでは、2つ目のポイントとしての「申請書類の準備」について、お聞かせいただけますでしょうか?
はい。
先ほど、お伝えしたように「建設業許可の実体的要件」を満たしていることを確認してから「申請書類の準備」をすることが、自分で建設業許可を取得しようとする人にとっての、失敗しないための鉄則です。実は、「申請書類の準備」についても、ちょっとしたコツがあります。
そのコツとは、「役所から取り寄せる書類」「自社で保管している書類」「作成入力が必要な申請書類」の3つに分けて、準備をするということです。
「3つに分けて準備する」ということは、どういうことですか?
建設業許可を取得するために準備しなければならない書類は、非常に多いです。手引きの必要書類一覧を見ると、その書類の多さに面食らってしまう人もいるでしょう。そういったときには、「役所から取り寄せる書類」「自社で保管している書類」「作成入力が必要な申請書類」の3つに分けて考えると頭の中がすっきり整理されます。
「役所から取り寄せる書類」は、登記簿謄本、法人事業税納税証明書、取締役の身分証明書、取締役の登記されていないことの証明書などが、該当します。これらは、「発行後3か月以内の原本」と指定されていることも多いため、とにかく役所に取りに行かなければ始まりません。
続いて「自社で保管している書類」は、財務諸表、定款、工事の実績を証明するための工事請負契約書などです。これらの書類は、まさに、自分の会社で保管していなければならない書類です。以前「定款は、どこに行けばもらえるのですか?」という質問を受けたことがあります。こういった書類が見つからないということはないと思いますので、必ず、社内で確認をしてみてください。
最後に「作成入力が必要な申請書類」です。一番面倒なのが、この書類です。「どうやって記入するのか?」「何を書けばよいのか?」が、非常にわかりづらいので、一番苦戦するところです。しかし、みなさんは、「建設業許可を自分で申請すること」を選択しているはずです。行政書士に依頼することによって、こういった手間を省くことはできますが、自分で申請することを選んでいる以上、手引きの記載要領を確認しつつ、申請書類のひな型をネットからダウンロードして1つ1つ丁寧に書類を作成していかなければなりません。
必要書類を役所に取りに行くのも面倒ですが、申請書類のひな型に1つ1つ記入・入力していく作業は、さらに面倒に感じます。
おっしゃる通りです。そのあたりが、手続きを行政書士に外注するメリットとなるのでしょうね。自分でやるからには、そういった作業も地道におこなっていかなければなりません。逆に言うと、「そういった作業を自分でやりたくない人」や、「ストレスなく建設業許可を取得したい人」は、手続きを外注するという選択肢もありかもしれません。
どうにもならなかった場合の対処法
ここまで、「実体的要件のチェック」「申請書類の準備」とお話しいただきましたが、「どうにもならなかった場合」は、建設業許可の取得をあきらめるしかないのでしょうか?
自分でやっていて、どうにもならなかった場合の話ですね。
実は、東京都庁の第2庁舎3階の建設業課には、「行政書士の相談コーナー」が設置されています(※注1)。この相談コーナーは、行政書士の先生が、「許可要件」や「書類の準備」や「申請手続き」について、相談に乗ってくれる場所です。都庁まで行くのは面倒くさいという人もいるかもしれませんが、運がよければ待ち時間なく相談に乗ってくれる可能性もあります。
また、東京都行政書士会でも「東京都行政書士会本部による無料相談会・無料相談窓口」というのを設置しています(※注2)。こちらは、東京会による無料相談です。「街の身近な法律家」として無料電話相談を実施しているので、そういった電話相談を利用してみてもよいかもしれません。
(注2)東京都行政書士会本部による無料相談会・無料相談窓口のページは、こちら
「東京都庁の行政書士の相談コーナー」「東京都行政書士会の無料相談」というのがあるのですね。はじめて知りました。
はい。ただ、こういったサービスは、あくまでも無料で行うのが前提です。無料のサービスである以上、丁寧に教えてくれる範囲には限界があります。「自分のケースだと、どう当てはまるのか」という個別の判断まで踏み込んでくれるとは限りません。結果として、何回か足を運ぶことになったり、思わぬ部分で勘違いが生じたりして手続きがストップしてしまうケースがないとも言い切れません。
それでも、どうしても、建設業許可を取得したいという場合には、自分ですることをあきらめて、弊所のような専門家にご相談していただくことをお勧めします。
最終的には専門家である行政書士に外注するのが、安全だということですね。
はい。自分でどうしようもない以上、行政書士に手続きを外注した方がよいでしょう。ただ、その際に気を付けなければならないのは、行政書士選びです。
突然ですが、みなさんが、おなかが痛くなった場合、どうしますか?内科の病院を探して、受診しますよね。まさか、おなかが痛いのに、たまたま家の近くにあるからと言って「皮膚科」を受診する人はいないと思います。
それって、どういうことですか?
すこし、回りくどい言い方になりましたが、私が言いたいのは、「建設業許可の取得を専門に行っている行政書士事務所に手続きを依頼したほうが良いですよ」ということです。
行政書士事務所の中には、私たちの事務所のように「東京都の建設業許可申請手続き」を専門にやっている事務所もあれば、「外国人のビザ関係の仕事」を専門にやっている事務所もあれば、「相続や遺言などの民事関係の仕事」を専門にやっている事務所もあり、専門分野が各事務所によってバラバラです。
「建設業許可の申請手続きで困っているのに、近くにあって費用が安そうだからという理由で、建設業許可に詳しくない行政書士事務所に相談に行く」ということは、「おなかが痛いのに皮膚科に相談に行く」ようなものです。
私はこの業界で、10年以上に渡って、建設業許可の申請実務を行っています。「執行役員を経営業務管理責任者にして申請を通したケース」「公表されている一覧に記載されていない学科の卒業経歴を使って建設業許可を取得したケース」「10年の実務経験を証明して許可を取得したケース」など、さまざまな事案を扱ってきています。
もし、「自分の力ではどうにもならない」「無料相談では、許可が取れそうにない」という場合には、最後の手段として専門家を頼ってみるのも1つの方法であることを、頭の中に入れておいて頂ければと思います。
行政書士の先生にも、専門分野があるのですね。建設業許可に強い行政書士事務所を選んで、手続きの相談をすることが、重要ですね。それでは、そろそろお時間になりましたので、最後に一言お願いいたします。
正直言うと、建設業許可の申請を自社の力だけでやろうとするのは、かなり難しい部分があると思います。とくに初めて申請される方にとっては、「そもそも何を準備すればいいのか分からない」「ネットの情報と実際の役所の対応が違っていて混乱した」など、想定していなかったところでつまずくことが多くあります。こうした手続きは、単に書類を揃えれば終わりではなく、会社の実態と許可要件とのすり合わせや、書類をどう整理すればよいかという視点も必要になります。
だからこそ、専門的なサポートが本当に必要な場面では、建設業許可の実務に詳しい行政書士に一度ご相談いただくことをおすすめしています。弊所では、事前予約制の有料相談という形で、個別の状況を踏まえたアドバイスも行っておりますので、「自分の会社の場合はどうなるのか」を知りたい方は、ぜひお気軽にご利用ください。現場をよく知る立場から、少しでもお役に立てればと思います。
本日は、最後までありがとうございました。