建設業許可は「建設会社だけが取るもの」――そう思い込んでいませんか?
実は、不動産会社や設備メーカー、通信・IT業者、イベント会社など、一見すると建築工事とは無関係に見える業種でも、業務内容によっては建設業許可が必要になるケースが数多くあります。特に、外注に頼らず自社で施工を管理したい場合や、500万円(税込)を超える工事を請負う場合には、法律上、建設業許可がなければ契約そのものが違法となるリスクもあるのです。
本記事では、行政書士法人スマートサイドの代表・横内賢郎が、建設業が本業でない会社がなぜ建設業許可を必要とするのか、またどんな方法で許可を取得すればよいのかを、実際の相談事例や実務経験を交えて分かりやすく解説します。
「設置工事は外注だから大丈夫」「うちは製品を売ってるだけ」――そんな思い込みが、実は法的リスクやビジネス機会の損失につながっているかもしれません。建設業許可取得がはじめての方にも、理解しやすい内容に仕上げましたので、この記事を通じて、建設業許可の正しい理解と、許可取得の方法について、確認いただければ幸いです。
建設会社でない会社の許可取得の必要性と可能性
それでは、横内先生、本日もよろしくお願いします。
はい。こちらこそ、よろしくお願いします。
今日のテーマは、「建設会社でない会社の建設業許可取得の必要性や可能性」についてですね。実は、このテーマは、とてもホットな話題です。以前は、いわゆる解体工事業者とか道路舗装工事業者といった、誰が見ても「建設業」をメインでやっている会社からのご相談が多かったのです。しかし、ここ最近は、「デザイン会社」「イベント会社」「設計会社」「設備会社」「製造メーカー」など、一見すると、建設工事とは関係のなさそうな業態の会社から、建設業許可に関するご相談が増えています。
まさに、「建設業許可は建設会社だけのものではない」と言ったところです。そういった意味で、このインタビュー記事は、建設業許可や建設業法について、まったく知識のない人が読んでも、わかるように、丁寧に、説明をするように心がけていきたいと思います。
はい。「建設業許可に詳しくない人向け」という前提でお願いします。
まず、建設会社ではないけれども、建設業許可が必要になるケースとして
- 賃貸、分譲マンションの管理を自社で行う不動産管理会社
- 自社で土地を仕入れて、建物を建てるデベロッパー
- 仮設ステージや展示会ブースの設置を行うイベント会社
- 自社製品の設置工事まで一括して行う設備メーカー
- LAN工事や配線工事を行う通信会社
- 防犯カメラ、センサーの設置を請負う警備会社
- デザイン、設計から施工までを一括で展開するデザイン会社
などが挙げられます。もし、みなさんの会社が、いま挙げた会社に該当する場合には、要注意です。
そもそも、建設業は、誰でも行うことができます。会社で建設業をおこなうにあたって、建設業の許可は必要ありません。誰でも自由に会社を立ち上げて、建設業および工事の請負や施工をすることは、出来るのです。但し、1件当たりの工事の請負金額が500万円(税込み)以上になる場合には、「建設業許可」を取得しなければなりません。建設業許可を持っていないのに、500万円以上の工事を請負うことは、建設業法違反になってしまいます。
なお、「元請の立場で」「下請に5000万円以上(建築一式工事の場合は8000万円以上)の工事を発注する際」に必要になるのが、特定建設業許可(※注)ですが、ここでは、一般建設業許可を前提にお話しをしていきます。
(注)御社も取れる!特定建設業許可取得の成功法則!技術者要件・財産的要件を専門書出版の著者が詳細解説
建設業許可取得に関するよくある誤解
500万円以上の工事を請負うには、建設業許可が必要であるというのは、有名な話ですね。
はい。
おそらく、多くの人が、取引先や発注者から「御社は、建設業許可を持っていますか?」と聞かれて、初めて建設業許可のことを知ると思うのですが、ネットで検索すると、「500万円以上の工事には、建設業許可が必要である」ということが、すぐにわかると思います。
「建設業許可」については、さまざまな誤解があるので、少しお話しを先に進めますね。
まず、設備の製造・販売を行う設備メーカーの場合。「空調設備」や「冷暖房設備」の額が480万円で、「設置工事」の額が20万円で、合計500万円だった場合、建設業許可が必要か?という問題があります。この場合、「設置工事」の額だけを見ると、500万円未満なので、建設業許可は必要ないようにも思えます。しかし、「設備の販売」と「設備の設置」を1つの契約として請負う場合には、「設置工事」だけでなく「設備の販売価格」も合算して、500万円以上なのか未満なのか?を判断することになります。
よって、この場合、建設業許可がなければ「設置工事」を行うことができません。
「販売価格」と「工事価格」を合算して判断しなければならないのですね。
はい。その通りです。
また、設置工事を外注していても、自社が請負契約の当事者であれば、建設業許可が必要になる場合があります。これは、実際に施工するのが自社か外注かは関係なく、「誰が発注者と契約しているか」がポイントになるからです。
さらによくある誤解の1つとして、「500万円を超えるのは、年に数件しかありません。それでも、建設業許可が必要ですか?」という質問があります。これは、イベント会社や展示会業者に多い質問です。イベント自体は、月に何件もあるものの、1回あたりの工事の請負金額が500万円を超える、規模の大きいイベントは年に数回しかないというパターンです。
もちろん、このような場合でも、建設業許可が必要になることに間違いありません。工事の年間件数が問題なのではなく、工事の金額が問題なのです。そのため、仮に、500万円以上の工事が「年に1回あるかないか」という場合でも、実際に500万円以上の工事を請負うには、建設業許可が必要になります。
それでは、仮に500万円以上の工事に該当したとしても、契約をいくつかに分割したり、請求書を分けたりして、1回あたりの入金が500万円未満になるように調整すればよいのではないでしょうか?
そのように考えるお客さまは、多いです。
「建設業許可を持っていない会社が500万円以上の工事を請負い、施工することができないこと」を知ったうえで、金額を500万円未満にするために、請求書を複数回に分けて発行しているようなケースは、よく見受けられます。
しかし、これは、立派な建設業法違反です。「コンプライアンスに厳しい発注者」や「法令意識の高い会社」は、こういったやり方を非常に嫌います。だからこそ、500万円以上の工事を正々堂々と受注できるように、どの会社も建設業許可を欲しがっているわけです。そもそも、建設業法が500万円以上の工事を請負う際に建設業許可が必要であるとした趣旨は、発注者の保護にあると言われています。そういった法の趣旨からすると、発注者が、わざわざ、許可を持っていない業者に500万円以上の工事を発注するのは、リスクしかないことがお分かりいただけるはずです。
たしかに、「何かあるとすぐ叩かれる」時代です。会社経営者としても、建設業法をはじめ、コンプライアンスの遵守は、徹底していきたいところです。
先日も、とあるイベント会社の内装工事の建設業許可を取得することに成功しました。また、空調設備メーカーの管工事の建設業許可や、通信・IT事業者の電気通信工事の建設業許可も取得しています。それぞれ、会社の本業は、「建設工事の請負施工」ではなく、「イベントの企画運営」であったり、「空調設備の製造・販売」であったり、「Wi-Fiや通信環境の整備」であったりするわけです。
ただ、そういった会社の主たる業務に付随して、「設置工事」や「設備工事」が発生する以上、建設業許可を取得しておいて、間違いないということをよく覚えておいてください。
建設業許可を取得することによって、取引先からの信頼を獲得することができますし、他社との競争優位性を保つこともできます。
建設会社でない会社が建設業許可を取得する方法
建設業許可を取得する必要性については、よく理解できたのですが、実際に、建設業許可を取得するには、どうすればよいのでしょうか?
建設業許可を取得する際に、一番重要なのは、人的要件の充足です。建設業許可を取得するには「経営業務管理責任者」と「専任技術者」が必要です。
「経営業務管理責任者」は、会社における建設業部門の最高責任者のことです。経営業務管理責任者の要件を満たすには、
- (ア)申請会社の常勤の取締役であること
- (イ)取締役としての経験が5年以上あること
- (ウ)その5年間、建設業をおこなってきたこと
の3つをすべて満たすことが必要です。
建設業がメインでない会社は、(ウ)の条件を証明することが、難しい傾向にあります。なぜなら、そもそも「建設業がメインでないため」今まで建設業を行ってきてないからです。
続いて、「専任技術者」は、会社に常勤する請負工事の技術的な責任者のことを言います。専任技術者の要件を満たすには
- (1)建築士や施工管理技士などの資格
- (2)建築科や土木科の卒業経歴+3~5年の実務経験
- (3)10年の実務経験
のいずれか条件を満たすことが必要です。
(1)の建築士や施工管理技士といった資格を持っている人が、社内にいれば良いのですが、そういった資格者が社内にいない場合には、(2)(3)の実務経験を証明する必要があります。内装工事の建設業許可を取得したいのであれば内装工事の実務経験、電気通信工事の建設業許可を取得したいのであれば電気通信工事の実務経験を、証明して行かなければなりません。
経営業務管理責任者の(ウ)の条件、専任技術者の(2)または(3)の条件を証明するのは、非常にハードルが高いと思うのですが。
はい。「その5年間建設業をおこなっていたこと」「3~5年の実務経験」「10年の実務経験」の部分ですね。
過去に工事の請負や施工を行ってきた実績が、きちんとあれば、それほど、難しくありません。しかし、一方で、工事の実績が全く「ゼロ」という場合には、外部から経験者を採用するなどの手段が必要になってきます。
正直にいうと、このあたりについては、手続きを依頼する行政書士の力量に大いに左右される部分だと思って頂いて構いません。弊所のように、たくさんの許可取得の経験や実績がある事務所は、「東京都の審査担当者がどういったところを見ているのか?」「何を基準に判断しているか?」ということを、よく理解しています。そのため、審査が通りやすい書類を作成することができます。
一方で、経験の浅い行政書士や知識に乏しい事務所は、そういった点が理解できていないため、同じ状況にあっても、なかなか許可を取得するのが難しいのではないかと思います。
具体的には、どういった方法で実績を証明して行くのですか?
この点については、以前のインタビュー記事(※注)でも詳細に解説させて頂いておりますので、繰り返しになりますが、原則として、「工事の請求書と入金記録」を使って、工事の実績を証明して行きます。
- 御社が工事の請負及び施工を受注した際に、取引先に発行する工事費用の請求書
- その請求に対する入金であることがわかる銀行通帳や取引明細など
をもとに、工事の実績を1件1件証明して行くのです。東京都の場合は、3か月に1件の割合で、「工事の請求書+入金記録」が必要になります。この「工事の請求書」と「入金記録」を5年分もしくは10年分集めることができるか否かが、建設業許可取得の鍵になります。
(注)【専門家に聞く】経営業務管理責任者の経営経験を証明するための「資料」と「方法」
(注)【専門家に聞く】専任技術者の証明書類、どこまで揃えれば大丈夫?実務のポイントを解説
横内先生の事務所にご相談させていただく場合、どういった流れになりますか?
はい。
私の事務所では、「お客さま一人一人への適切な対応」および「質の高い面談時間確保の見地」から、手続きに関する相談は、すべて事前予約制の有料相談になっています。まずは、その点を、事前にご理解ください。
まず、弊所では、会社の登記簿謄本を取り寄せ、会社の設立日や取締役の就任日を確認します。例えば、会社設立後2年しか経っていない場合。そもそも、「経営業務管理責任者」の「5年の経営経験」の条件を満たしている可能性が低いです。一方で、会社設立後10年以上経っているような場合。過去の実績をかき集めることによって、「経営業務管理責任者」の「5年の経営経験」も「専任技術者」の「10年の実務経験」も、証明できる可能性がグッと高くなります。
詳細は、打ち合わせの際に、ヒアリングをしたうえで、判断することになりますが、登記簿謄本1つで、結構な割合で、許可取得の可能性を判断することができるのです。
それでは、お時間になりましたので、横内先生の方からひとことお願いできますでしょうか?
はい。
弊所のお客さまを見ても、建設業を専門でやられている会社というのは、むしろ少数派と言えます。もちろん、建設業をメインに「公共工事の受注」や「億を超える元請工事の受注」を、積極的に狙っている建設会社もいます。しかし、不動産会社、設備会社、イベント会社、通信業者、デザイン・設計会社など、建設業以外の業務をメインにしている会社が多いのも事実です。
みなさんの会社が、
- 500万円以上の工事は年に数件しかない
- 設備の設置工事は、販売に付随してやっているだけ
- 500万円を超えないように請求書を複数回に分けて発行している
と言ったとしても、「建設業許可が不要である」ということにはなりません。むしろ、最近では、コンプライアンスや他社との差別化の観点から、積極的に建設業許可を取りに行きたいという経営者の人が増えているように思います。
行政書士法人スマートサイドでは、建設業が本業ではない企業に向けた許可取得サポートも多数実施しています。要件の確認や必要書類の準備まで、実務に即したアドバイスを行っていますので、不安な方はぜひご相談いただければと思います。本日は、最後まで、ありがとうございました。