■ 経験はあるのに、どの書類を出せばいいのか分からない
■ 昔の会社の資料が手元にない
建設業許可の申請を進める中で、経営業務管理責任者の「経営経験」の証明に悩む人は少なくありません。「経営業務管理責任者の経営経験をどうやって証明するのか?」「証明資料として何を用意すればいいのか?」「手引きを見ても先に進めず悩んでいる…」といった声は後を絶ちません。
本日は、建設業許可申請の実務に精通し、数多くの建設会社を許可取得に導いてきた行政書士法人スマートサイド代表の横内賢郎先生にインタビュー。豊富な許可取得の実績をもとに、経営経験を証明するための「資料」と「準備の方法」を、東京都の手引きの解釈の仕方を交えて、詳しく解説します。
経営業務管理責任者に必要な「経営経験」
それでは、横内先生。本日もよろしくお願いします。
こちらこそ、よろしくお願いします。今日のテーマである『経営業務管理責任者の経営経験を証明するための「資料」と「方法」』は、建設業許可を取得する上で、非常に多くの人が苦労しているポイントです。逆に言うと、この点さえクリアできれば、建設業許可を取得するのも、そう難しくないというのも事実です。
今日は、東京都が発行している手引きの解説なども交えつつ、インタビューに応じていきたいと思います。
早速ですが、経営業務管理責任者となる人は、(ア)(イ)(ウ)という3つの条件を揃えていなければなりません。
- (ア)申請会社の常勤の取締役
- (イ)取締役もしくは個人事業主としての5年の経験
- (ウ)その5年間、建設業をおこなっていたこと
です。この(ア)(イ)(ウ)については、「経営業務管理責任者の要件でつまずく会社の共通点」というインタビューで詳細に説明しているので、よくわからない人は、まず、そちらのインタビュー記事(※注)をお読みください。
(注)【専門家に聞く】知らないと危険!経営業務管理責任者の要件でつまずく会社の共通点
経営業務管理責任者は、建設業許可取得の要件ですので、(ア)(イ)(ウ)の条件を満たした人が会社にいないと、建設業許可を取得することができないのです。
今回のテーマは、「経営経験の証明」についてですので、主に(ウ)の「その5年間、建設業をおこなっていたこと」をどう証明して行くかが主なテーマとなります。なお、法人の取締役と個人事業主とでは、必要になる書類が異なるので、今回は、「法人の取締役」の場合に絞ってお話しさせて頂きます。また、東京都と他の自治体とでは、証明の仕方や必要書類が異なります。そのため、今回は、東京都知事許可を取得する場合の資料や方法について、お話しをさせて頂きます。
はい。わかりました。「法人の取締役」であること、「東京都知事許可」の場合であることの2点に絞って、お話しを進めてください。
ありがとうございます。
まず、前提として、経営業務管理責任者の要件を満たすには、「(イ)取締役としての経験が5年以上必要」で、「(ウ)その5年間、建設業をおこなっていたこと」が必要です。
取締役としての5年以上の経験は、登記簿謄本を確認すれば、すぐわかるので、(イ)の条件というのは、あまり問題になりません。しかし(ウ)の「その5年間、建設業をおこなっていたこと」はどうやって証明すればよいのかが、いまいち、わかりにくいです。
ここで、わかりやすく説明するために、
- これから建設業許可を取得したいと考えている会社をX社
- X社の経営業務管理責任者になろうとしている人がAさん
- Aさんは過去5年以上に渡ってY社の取締役の経験がある
という例えで、話を進めていきますね。
まず、Aさんは過去5年以上に渡ってY社の取締役としての経験があるわけですから、(イ)の条件は満たしています。この場合(イ)の条件を満たす資料としてY社の登記簿謄本が必要になります。それでは、Aさんが(ウ)「その5年間、建設業をおこなっていたこと」はどうやって証明すればよいのでしょうか?
この点については、Y社が建設業許可を持っていた会社か?建設業許可を持っていない会社か?によって、証明する資料が大きく変わってきます。
「経営経験」を証明するために必要な資料
Aさんの前職の会社が、建設業許可を持っているか否かによって、X社が準備すべき証明資料が変わってくるのですか?
はい。
Y社が建設業許可業者か否かによって、X社が都庁に提出しなければならない書類は変わってきます。とても重要なポイントなので、押さえておいて欲しいです。これから建設業許可を取得しようとするX社にしてみれば、経管候補のAさんの前の会社のことなんて「知ったこっちゃない」となりそうですが、実は、X社の建設業許可取得の可能性が、大きく左右されてしまうのです。
なるほど、続けてください。
まず、Y社が建設業許可を持っている会社であった場合についてです。
この場合は、AさんがY社の取締役であった5年間の、Y社の「建設業許可通知書」や「建設業許可に関する申請書類」が必要になります。AさんがY社の取締役であった5年間の、Y社の許可通知書があれば、「その5年間、建設業をおこなっていたこと」という(ウ)の条件は証明されることになります。
ここで大事なのは、AさんがX社の経営業務管理責任者になる場合、X社での経験しか利用することができないわけでなく、前職・前々職と遡って、経営経験を利用して構わないという点です。例えば、60代のAさんが、20代のころに、X社とは全く関係のない別の建設会社の取締役をしていたような場合には、その20代のころの「経営経験」を遡って証明できれば、X社の経営業務管理責任者になることもできます。(ウ)の「経営経験」は、なにも自社での経験である必要はなく、他社での経験でも構わないという点について、覚えておいてください。
過去に取締役をしていた会社が建設業許可を持っていた場合には、許可通知書や許可申請書で、「建設業をおこなっていたこと」を証明できるのですね。ただ、前の会社が「許可通知書」や「許可申請書」を貸してくれない場合は、どうすればよいのでしょうか?
とてもよいご指摘です。
仮にAさんが取締役をしていたY社が、建設業許可業者であった場合、X社としては建設業許可を取得するための資料として、Y社の持っている「許可通知書」や「許可申請書」が必要になります。AさんがY社から借りることができればよいですが、退社を機に、AさんとY社との関係性が疎遠になっている可能性もあります。また、X社とY社との間に何らかの関係性がなければ、Y社から借りることができないかもしれません。
ただ、その場合でもあきらめないでください。許可行政庁がY社の建設業許可情報を把握している場合があります。また、許可行政庁に電話で照会を掛けたり、場合によっては情報開示請求をすることによって、Y社がいつからいつまで建設業許可を持っていたかを証明することができる場合があります。
このような方法をとることによって、AさんがY社の取締役であった5年以上の期間、Y社が建設業許可業者であったことを証明できれば、Aさんは晴れて(ウ)の「建設業をおこなっていたこと」の条件をクリアでき、X社はAさんを経営業務管理責任者として建設業許可を取得できることになるのです。
ここまでは、Aさんの前の会社のY社が、建設業許可を持っていた場合の話でしたね。仮に、Y社が建設業許可を持っていなかった場合は、どうなるのでしょうか?
はい。
Y社が建設業許可を持っていなかった場合は、すこし、ハードルが上がります。その場合には、「工事請負契約書」「工事請書」「請求書+入金記録」によって、(ウ)の「建設業をおこなっていたこと」を証明する必要があります。
「工事請負契約書」「工事請書」「請求書+入金記録」をY社から借りなければならないということですか?
はい。その通りです。
AさんがY社で取締役をしていた5年以上の期間、Aさんが「建設業をおこなっていたこと」を証明するには、Y社の「建設工事の工事請負契約書」「Y社の工事請書」「Y社の工事に関する請求書や入金通帳」が必要になってきます。
それは、あまり現実的でないような気がします。「X社の社長とY社の社長が知り合いである」とか、「X社・Y社が同じグループ内の会社である」とかいった特殊な事情が無い限り、他社の契約書や通帳なんて、借りることができないと思うのですが。
はい。そうなんです。
経営業務管理責任者の要件が難しいとされる所以は、ここにあります。経営業務管理責任者の「経営経験」は、自社での経営経験である必要はなく、他の会社での経営経験であっても問題ないと、さきほどお話ししました。しかし、その経営経験は「建設工事の請負及び施工」をしていた経験、つまり、建設業をおこなっていた経験でなければなりません。そのため、取締役期間中に「建設業をおこなっていたこと」を証明するために、取締役として在籍していた会社の「工事請負契約書」などが必要になるのです。
例えば、Aさん自身がY社の代表取締役であった場合は、比較的、話がスムーズに進むかもしれません。Aさんは、X社の経営業務管理責任者になるために、自身が代表を務めていたY社の「契約書」や「通帳」をX社に提供するということは十分に考えられることです。
もし、それが難しいようであれば、X社は自社の取締役の中に、5年以上の経営経験を証明できる人が出てくるまで、許可の取得をあきらめるしかないのです。
「経営経験」を証明するための資料の準備の方法
なるほど、それは、かなり厳しいですね。では仮に、「工事請負契約書」「工事請書」「請求書+入金記録」を準備できるとなったとして、「どの程度の数」を「どういう方法」で、準備すればよいのでしょうか?
資料の準備の方法ですね。
この点については、東京都の手引きにも詳しく書いているのですが、原則としては「1か月に1件」の割合での提示が必要になります。つまり、5年間の経営経験を証明するには、60か月分の「工事請負契約書」「工事請書」「請求書+入金記録」を準備しなければなりません。ただし、東京都の手引きにも記載があるように、「経営経験・実務経験期間確認表」という書類を添付することによって、「3か月に1件」の割合に、証明資料の提示を省略することができます。
なので、証明書類をできるだけ少なくしたいと思う人は、「経営経験・実務経期間験確認表」をしっかり記載して、申請の準備に臨むのがよいでしょう。なお、「経営経験・実務経験確認表」は、東京都のホームぺージ(※注)からダウンロードすることができます。
また、ひな型については、私の事務所のホームぺージでも詳しく解説していますので、興味のある人は、該当のホームぺージ(※注)を確認してみてください。
(注)建設業の許可取得に必要な「実務経験の証明の仕方」がわかりません!
横内先生。すみません。ちょっと、今のところがわかりづらかったのですが、「経営経験・実務経験期間確認表」をつけると、具体的にどういうメリットがあるのかを、もう一度お聞かせいただけますか?
はい。非常にわかりにくいところだと思いますので、もう一度説明しますね。
経営業務管理責任者の経営経験は、5年以上必要です。そして、その5年間は、「建設業をおこなっていたこと」が必要ですので、その「建設業をおこなっていたこと」を証明するために、1か月に1件の割合で、「工事請負契約書」や「工事に関する請求書や通帳」を準備しなければなりません。1か月に1件の割合で5年間ですので、合計60件以上の件数が必要なわけです。
たださすがに、60件というのは、証明者の負担が重すぎます。そこで、「経営経験・実務経験期間確認表」を添付することによって、中2か月間の証明資料の提示を省略できるようになったのです。つまり、「経営経験・実務経験期間確認表」を添付すれば、3か月に1件の割合で「工事請負契約書」などの資料を準備すれば足りることになります。
具体的に見ていくと、通常は、ひと月に1件ですので、「1月・2月・3月・4月・5月・6月・7月・8月・9月・10月・11月・12月」のすべての月で、「契約書」などを準備することによって、12か月=1年間の経営経験を認めてもらうことができます。しかし、「経営経験・実務経験期間確認表」を添付することによって、中2か月は省略することができ、3か月に1件の割合で証明して行けばよいことになりますので、「1月・4月・7月・10月・翌年1月」の「契約書」などを準備することによって、12か月=1年間の経営経験を証明することができるようになります。
たとえば、1年間の経営経験を証明しようとする場合、
- 1月・2月・5月・8月・9月・12月の資料を準備すればOKですし
- 1月・4月・6月・7月・10月・12月の資料を準備すればOKです
いずれも、最長で中2か月は空いていますが、3か月に1件以上の証明書類を提示できているので、1年間の経営経験を証明することができます。しかし、たとえば
- 1月・2月・3月・7月・10月・12月の資料しか準備できない場合
は、どうでしょうか?この場合には、3月の次が7月になっていて、4月5月6月の3か月が空いてしまっています。この場合には、その間の経営経験はカウントされませんので、「1月~3月までの3か月間」と「7月~12月までの6か月間」の合計9か月間の証明しかできないのです。
同様に、
- 1月・5月・7月・12月の資料しか準備できない場合
も、2月~4月の3か月間、8月~11月の4か月間、期間が空いていますので、1月、5月、6月、7月、12月の5か月間の期間しかカウントされないことになります。
2か月間は空いても良いけど、3か月以上空くと、その間の経験がカウントされなくなってしまうのですね。
はい。
この点については、証明資料となる「工事請負契約書」「注文書」「請求書や通帳」をどの程度の件数、準備することができるか?に掛かってきます。安全かつ確実に許可を取得したいというのであれば、より多くの資料を準備してもらったほうが、よいに越したことはありません。
経営業務管理責任者の「経営経験」の証明でお困りの人へ
経営経験の証明について、非常に勉強になりました。そろそろお時間ですので、最後に一言お願いします。
本日お話ししたテーマである『経営業務管理責任者の経営経験を証明するための「資料」と「方法」』は、とても難しい部分です。このあたりが、サクッとクリアできると、建設業許可をよりスムーズに取得することができるのではないかと思っています。
ただ、やはり、素人の人が、申請書類を書いて、提示資料を準備するのは、かなり難しいと言わざるを得ません。冒頭にもお話ししたように証明資料の提示の方法は、各自治体によって異なります。東京都の場合、神奈川県の場合、千葉県の場合とで異なってくるので、仮に、千葉県でうまく行ったからと言って、同じ方法で東京都でうまく行くとは限りません。また、東京都の申請方法1つとっても、手引きに書いてある運用方法が、変わる可能性もあります。
最後になりましたが、経営業務管理責任者の経営経験をどう証明するかは、建設業許可の可否を左右する重要なポイントです。状況によって求められる資料は異なりますし、対応を誤ると申請が長引いたり、通らなかったりすることもあります。そうしたリスクを避けるためにも、実務に精通した専門家のサポートを受けることは有効な選択肢の1つと言えます。
もちろん、まずはご自身で判断したいという方もいらっしゃるでしょう。そういった人にとって、今回のインタビューが、今後の申請準備の一助となれば幸いです。