建設業許可を取得するには「経営業務管理責任者(経管)」の要件を満たす必要があります。「経営業務管理責任者」になるには「取締役としての経験」や「個人事業主としての経験」が求められるため、建設業許可を取得したい法人にとって、非常にハードルの高い要件になっています。そのため、「経営業務管理責任者」を証明するのに苦労する会社が多いです。
他方、取締役ではない執行役員が経営業務管理責任者として認められるケースがあることをご存じでしょうか?本記事では、行政書士法人スマートサイドの横内賢郎先生に、執行役員を経管とするための最新ルールと、実際に許可を取得した事例、そして審査を通過するために求められる書類について詳しく伺いました。
「経営業務管理責任者」になるためのルール
それでは、本日も、よろしくお願いします。
はい。今日は、「執行役員を経営業務管理責任者にして、建設業許可を取得できるか?」というテーマでしたね。
まずは、経営業務管理責任者の要件について、ルールを整理して行きたいと思います。経営業務管理責任者とは、「営業取引上対外的に責任を有する地位にあって、建設業の経営業務について総合的に管理した経験を有する者」のことを言います。少し、難しく感じるかもしれませんので、「会社における建設業部門の最高責任者」というとらえ方で問題ありません。
経営業務管理責任者の要件を満たす人がいないと、建設業許可を取得することができないのですが、経営業務管理責任者になるには、
- (ア)申請会社の常勤の取締役であること
- (イ)取締役(もしくは個人事業主)としての5年以上の経験があること
- (ウ)その5年間、建設業をおこなっていたこと
の3つの条件が必要です。
今回のテーマである「執行役員でも建設業許可を取ることができるのか?」という点については、
- 「(ア)申請会社の常勤の取締役」ではなく「(ア)申請会社の常勤の執行役員」でも大丈夫か?
- 「(イ)取締役としての5年以上の経験」ではなく「(イ)執行役員としての5年以上の経験」でも大丈夫か?
という2つの問題に分けて考えなければなりません。この点の理解がないと、なかなか、この後の議論についてくることが難しくなりますので、まずは、経営業務管理責任者になるための(ア)(イ)(ウ)のルールと、執行役員が経管になる際には(ア)と(イ)が問題になることについて、頭を整理してみてください。
「現在、執行役員の人を、経管にできるか?」「過去5年間、執行役員だった人を経管にできるか?」とも言いかえることができますか?
はい。そのように言い換えることができます。
(ア)の要件は、「申請時点において、どのポジション(地位)にある人であれば良いか?」という視点です。申請時点において、会社の取締役でなければならないのか?それとも、取締役でなく執行役員でもよいのか?という視点です。
一方で(イ)の要件は、「過去5年間の経験が、どんな経験であったか?」という視点です。過去5年間、取締役でなければならなかったのか?それとも取締役ではなく執行役員の経験でもよいのか?という視点です。
ここまでは大丈夫でしょうか?
はい。「現在のポジションとして執行役員でもよいのか?」という視点と、「過去の経験が執行役員でもよいのか?」という視点の2つを理解できています。続けてください。
結論から言うと、
- 申請時点で(取締役ではなく)、執行役員の人を経管にすること
- 過去の経験が(取締役の経験がなく)、執行役員としての5年の経験しかない人を経管にすること
のどちらでも建設業許可を取得することができる可能性があります。
執行役員を経営業務管理責任者として許可を取得した事例
執行役員を経営業務管理責任者にして、建設業許可を取得することができるということですね。
はい。実際に私の事務所でも、建設業許可取得に成功していますので、実際の事例をご紹介させて頂きますね。
まず、過去に建設業許可を持っていた会社の取締役であった人を、取締役としてではなく執行役員として迎え入れたケースです。この会社を仮にA社とすると、A社は建設業許可を取得する必要性に迫られていました。しかし、社内に経営業務管理責任者の要件を満たす人がいなかったため、外部から経験者を登用するしかありませんでした。運よく、経験者つまり建設業許可会社で長年取締役を務めていた人を見つけることができたのですが、取締役に就任させる点については、一部の役員や株主から反対があったようです。
そこで、その経験者を取締役としてではなく、執行役員として社内に招聘し、経営業務管理責任者として、建設業許可を申請し、無事、許可を取得することができました。
A社の場合、なにが問題になったかというと「経験者であるXさんを執行役員にして、建設業許可を取得することができるか?」という点がポイントでした。この場合、(ア)(イ)(ウ)の条件のうち(ア)が問題になります。Xさんは、過去に、建設業許可会社の取締役としての長年の経験があったのですから「(イ)取締役としての5年以上の経験」および「(ウ)その5年間、建設業をおこなっていたこと」は特に問題になりません。
(ア)の条件でいうところの、「申請会社の常勤の【取締役】」ではなく、「申請会社の常勤の【執行役員】」でよいかという点が問題になった事例でした。
続いてのケースはB社のケースです。この会社は、親会社の意向により、取締役が全員交代となってしまい、現在の取締役は就任してからまだ、数か月しか期間が経っていません。そのため、「取締役としての5年以上の経験のある人」が社内にいない状態でした。しかし、その取締役の中に、長年にわたって、B社の執行役員だった人がいました。この人を仮にYさんとすると、「取締役であるYさんの執行役員としての経験を使って、建設業許可を取得することができないか?」ということが論点になります。
つまりYさんは、B社の常勤の取締役であるので(ア)の条件は満たすことになります。そして、B社は長年建設業を営んできたので、(ウ)の条件も満たすことになります。ただ、Yさんは、B社の取締役であったわけではなく、執行役員であったにすぎないため、「(イ)取締役としての5年以上の経験」がなく、「執行役員としての5年以上の経験」しかないという状態です。
先ほどのA社のケースが(ア)の条件が問題だったのに対して、今回のB社のケースが(イ)の問題であることをご理解いただけると思います。結果として、B社のケースでも、Yさんの執行役員としての5年以上の経験を使って、Yさんを経営業務管理責任者にすることによって、無事、建設業許可を取得することができました。
執行役員を経営業務管理責任者にするための必要書類
(ア)の条件が問題になったX社のケースでも、(イ)の条件が問題になったY社のケースでも、どちらでも、建設業許可を取得することができたのですね。
はい。どちらのケースにおいても建設業許可を取得することができました。とはいえ、通常の場合と比べて、証明の仕方は、非常に難しいです。ここからは、審査を通過するために必要な書類についての、お話しに入りますね。
まず、取締役は登記簿謄本に氏名や就任日・退任日が記載されます。そのため、「現時点において取締役であること」や「過去の一定期間において取締役であったこと」は、登記簿謄本で確認することができます。しかし、執行役員は、登記事項ではないので、取締役のように、謄本で氏名や就退任の事実を確認することができません。
そのため、執行役員を経営業務管理責任者にして、建設業許可を取得しようとする場合には、
- 組織図
- 業務分掌規程
- 取締役会規則
- 執行役員規定
- 取締役会議事録
など、通常の建設業許可申請では、求められない書類を求められることになります。なお、書類の詳細については、相談事例のページ(※注)に詳細にまとめていますので、もし、興味のある人は、弊所のホームページも参考にしてみてください。
(注)執行役員を経営業務管理責任者にして建設業許可を取得することができますか?
馴染みのない書類もありますね。これらの書類で、具体的にどういったことを証明していけば良いのでしょうか?
はい。
このインタビューの冒頭に、経営業務管理責任者は「会社における建設業部門の最高責任者」であるという話をしました。もちろん正確には、もっと違った言い回しがあるのですが、ここでは「会社における建設業部門の最高責任者」というように理解してもらって問題ありません。
通常は、登記簿謄本の記載から「会社における建設業部門の最高責任者」であるということを証明するのですが、執行役員は、取締役と異なり、登記簿謄本に情報が載ってこないことから「会社における建設業部門の最高責任者」であるという証明を、先ほどあげた5つの書類から証明しなければならないのです。
たとえば、
- 組織図であれば、取締役会の直下に執行役員が置かれていること
- 業務分掌規程であれば、建設工事の請負契約や施工管理に関する部門が配置されていること
- 組織図と業務分掌規程の2つから、執行役員が建設業部門のトップにいることがわかること
- 取締役会規則や執行役員規定に、執行役員の選任・任期・義務などが、明記されていること
- 取締役会において「だれがいつなんの目的」で執行役員に選任されたかが分かること
などが必要です。
もう少し具体的に言うと、
というように、かなり明確に、取締役ではない執行役員Zさんが、経営業務管理責任者として「会社における建設業部門の最高責任者」の地位にあることを証明する必要があります。
執行役員を経管にして建設業許可を取得したい人へ
ずいぶんと難しいような気がしますね。
はい。「執行役員でも建設業許可が取れる」のは、事実です。ただ「執行役員でも建設業許可が取れる」と聞くと、建設業許可を取得することが「簡単になった」とか、「やさしくなった」と勘違いされる人もいるのですが、そういうことではありません。
たしかに、取締役でなくても経営業務管理責任者になることができるので、許可取得の幅は広がったということができるかもしれません。しかし、執行役員としての地位や経験で経営業務管理責任者に認めてもらうには、いまいったような狭き門をクリアしなければならないのです。
その他にも注意点としては、東京都の場合、執行役員が経営業務管理責任者として認められるためには、申請会社が「取締役会設置会社」でなければなりません。また、事前の確認が必要なため、組織図などをきちんと整理したうえで、事前審査を受けなければならないというルールになっています。
実際に、私が、執行役員を経管として建設業許可を取得する際には、事前相談に2回、事前確認に1回、本申請に1回というように、合計4回も都庁に足を運んだことがあります。もちろんすべてのケースにおいて、4回も都庁に行かなければならないというわけではありません。が、取締役を経営業務管理責任者にする通常のケースであれば、1回で済むのですから、それだけ、難しい申請であるという認識を持って、臨んでいただいた方が良いでしょう。
また、関東地方整備局に申請する際にも、個別認定が必要であり、申請の2か月程度前に、個別認定のため組織図などの書類を郵送しなければならないルールになっています。
横内先生、ありがとうございます。審査のための必要書類が求められるだけでなく、事前の個別の手続きが必要になるのですね。それでは、お時間になりましたので、最後に、ひとことお願いいたします。
「執行役員でも建設業許可を取る」というテーマで話してきましたが、パターンとしては、
- 「申請時点において執行役員の地位にある人」を経営業務管理責任者にしたいのか?
- 「申請時点において取締役の地位にある人の、執行役員としての過去の経験を使って」経営業務管理責任者にしたいのか?
という2つの問題点があることを理解して欲しいと思います。
実は、「申請時点において執行役員の地位にある人」の「執行役員としての過去の経験を使って」経営業務管理責任者にするという方法もあります。(ア)(イ)の条件の両方において「取締役」ではなく「執行役員」というケースです。いわば(ア)(イ)のハイブリットといってよいかもしれませんね。
経営業務管理責任者の要件については、インターネット上にもさまざまな情報があふれていて、どれを信じたらよいか?わからない人も多いと思います。私がこのインタビューで言いたかったのは、
- 執行役員でも建設業許可を取得することはできること
- ただし、通常の取締役の場合と比べてハードルはかなり高いこと
の2点です。決して、「簡単に」許可が取れるというものではありません。
一方で、さまざまな事情から、取締役ではなく、執行役員を経営業務管理責任者にせざるを得ない会社もあると思います。「取締役が全員、親会社の人間である」とか、「外部の経験者を取締役として就任させようと思ったら株主総会からの承認が得られなかった」といったように。そういった場合には、ぜひ、このインタビュー記事を思い返してもらって、「執行役員を経営業務管理責任者にして建設業許可を取る」ことにチャレンジしてみてください。
この記事が、建設業許可を取得したいとお考えのみなさんのお役に立てれば幸いです。本日は、どうもありがとうございました。