【専門家に聞く】経営業務管理責任者の交代・退任にどう備えるかー建設業許可維持の留意点

今回は、建設業許可申請の実務に精通する行政書士法人スマートサイド代表・横内賢郎先生に、経営業務管理責任者(経管)の「交代・退任」に関する重要なポイントを伺います。経管は建設業許可の要件であり、後任が見つからなければ許可の維持が困難となる恐れがあります。しかし実際には、多くの建設会社が「急な退任や死亡にどう備えるか」という課題に直面しつつも、十分な準備ができていないのが現状です。

経管の取締役退任時期がわかっているのであれば、事前に対策を打つことも可能ですが、不慮の事故や死亡といった理由で、突然、亡くなられた場合には、後任の選任や要件の確認、証明資料の準備に時間を要し、最悪の場合は許可を失う恐れもあります。こうした事態を防ぐためには、後任候補の育成や要件確認、経管交代時の手続きの流れを整理しておくことが重要です。

本インタビューでは、経管不在によるリスクとその対策、そして日頃から会社として何を備えておくべきかを、専門家の視点から詳しく解説していただきます。

「経管の交代・退任で多くの会社が困っている」という現状


それでは、横内先生。本日もよろしくお願いします。今日のテーマは「経営業務管理責任者の交代・退任」についてです。


はい。こちらこそ、よろしくお願いします。「経営業務管理責任者の交代・退任にどう備えるか?」は、とても重要かつ重たいテーマです。

単純に、「任期満了による退任」であれば良いのですが、事故や病気による突然の死亡というケースも考えられます。また、後任の経管候補がいなければ、その会社は、建設業許可の要件を失うことになるので、許可を維持することができなくなります。これは、会社にとって、とても大きなダメージです。

本日のテーマは、すでに建設業許可を持っている会社が、「経管の交代・退任を経て、どうやって建設業許可を維持していくか?」が本題になりますが、これから建設業許可を取得しようと考えている経営者の方にも、ぜひ、ご一読いただければと思っています。


「後任の育成」や「後任の採用」については、とても多くの会社が困っていることだと思います。


はい。うちの事務所にも、多くの相談が寄せられるテーマです。

まずは、経営業務管理責任者の意義や要件について、説明しますね。

まず、経営業務管理責任者とは「営業取引上対外的に責任を有する地位にあって、建設業の経営業務について総合的に管理した経験を有する者」を言いますが、ここでは、簡単に「会社における建設業部門の最高責任者」というように理解します。今、みなさんの会社が、建設業許可を持っているということは、「経営業務管理責任者」にあたる人が会社に在籍しているからなのです。

それでは、この「経営業務管理責任者」には、どうなったらなれるのでしょうか?誰でも自由に経管になれるのであれば苦労しないのですが、そうはなっていません。経管になるには、(ア)(イ)(ウ)の条件を満たしている人でなければなりません。

  • (ア)は、申請会社の常勤の取締役であること
  • (イ)は、取締役(もしくは個人事業主)として5年以上の経験があること
  • (ウ)は、その5年間、建設業をおこなっていたこと

の3つのすべてを満たしている場合に、はじめて経営業務管理責任者になることができるのです。

「経管の交代・退任」の問題点と対処法


それでは、すでに建設業許可を持ってる会社の現:経管が退任することになった場合、どういった問題が発生するのでしょうか?


はい。

さきほども申し上げたように、経営業務管理責任者は、建設業許可を取得するための要件のみならず、建設業許可を維持するための要件でもあります。なので、経営業務管理責任者が何らかの形でいなくなった場合、建設業許可の要件を欠くことになるので、許可を維持することができません。

「何らかの形でいなくなった場合」という表現をしましたが、たとえ、不慮の事故や突然の病死であったとしても、同じです。原因が「病死」だからといって、特別扱いされるようなことはありません。


そうすると、建設業許可を安定的に維持したい会社は、現:経管の後任を常に確保しておく必要がありますね。


その通りです。

経営業務管理責任者の要件が1日でも欠けた場合、その会社は、建設業許可を失います。よりわかりやすく具体例を交えながらお話ししますね。

例えば、建設業許可を持っているX社の経管がAさんだったとします。このAさんが3月31日をもって、取締役を退任し現役から引退することになりました。現:経管のAさんの後任がいれば良いのですが、Aさんの後任がいなければ、X社は3月31日をもって、建設業許可を失います。Aさんの後任に経管要件を満たしたBさんがいれば、許可を引き続き維持することができます。

ただし、後任のBさんは、4月1日時点で、経営業務管理責任者の条件である(ア)(イ)(ウ)を満たしている必要があります。よくある例として、社内にAさん以外に、経営業務管理責任者の要件を満たす人がいなかったので、慌てて、採用活動を行い、4月3日に後任経管のBさんを採用したというケースです。

この場合、たった1日ですが、4月2日が経管不在となっています。4月2日時点で、X社には経管がいません。そのため、この場合も、いったん許可を取り下げて、再度、あらたにBさんを経管として建設業許可を取得しなおさなければなりません。


経管不在の日が1日でもあれば、アウトということですか?


はい。1日でもあればアウトです。

当然のことながら、後任であるBさんが経管になるには、Bさん自身が

  • (ア)は、申請会社の常勤の取締役であること
  • (イ)は、取締役(もしくは個人事業主)として5年以上の経験があること
  • (ウ)は、その5年間、建設業をおこなっていたこと

という条件を満たさなければなりません。

もし、みなさんの会社が、同様のケースで後任のBさんを採用する場合には、Aさんが取締役を退任する3月31日の翌日である4月1日までに、採用していなければならないのです。


いまの話は、後任の経管候補であるBさんを社外から招き入れて、取締役になってもらうというケースですよね。自社内で、経管候補を見つけるにはどうすればよいですか?


自社内で経管候補を見つける、もしくは、選任する場合も、基本的には同様です。同じように、X社を例にとって、説明します。

建設業許可会社であるX社の経管Aさんが3月31日をもって、退任することが決まりました。X社には、Aさん以外に、Cさん、Dさん、Eさんという3人の取締役がいたとします。

Cさん、Dさん、Eさんの3人の取締役の中で、4月1日現在で、(ア)(イ)(ウ)の3つの条件を満たす人がいれば、その人を経管の後任とすることができます。たとえば、Cさんが、古くからX社で取締役をしているような場合、現:経管Aさんから後任経管Cさんへの変更届を提出すれば、許可を維持することができます。

しかし、一方で、CさんもDさんもEさんも、取締役に就任してから2年しか経っておらず、(イ)や(ウ)の条件を満たしていない場合には、3人とも経営業務管理責任者になることができません。X社内でAさんの後任になることができる人はいないことになり、やはり、4月1日以降は、経管不在となり、許可を取り下げなければなりません。


できることなら、「許可の取り下げ」「許可の失効」「廃業」は避けたいと思うのですが、そういった事態を避けるには、どういった方法を取るのがよいのでしょうか?


まずは、単純に、経管の候補者を、あらかじめ取締役に就任させておくという方法を取るのがベストです。経営業務管理責任者になるには、取締役としての経験が5年以上、必要です。この5年という期間は、正直言って、長いです。

ましてや、「現在の経営業務管理責任者が、突然の亡くなってしまう」ということが絶対に起こらないことではない以上、やはり、現:経管以外に、取締役を2名・3名体制で、会社を運営しておくべきです。もちろん、会社の方針や効率的な企業運営という観点から、取締役は、代表取締役で1名で構わないという考え方もあるでしょう。しかし、建設業許可の安定的な維持という観点からすれば、やはり、取締役は複数名体制であるべきなのです。

また、社内での後任の育成がどうしても難しい場合には、現:経管の退任前に、かならず、社外の経管候補を見つけておく必要があります。順番としては、「現:経管の退任が先」ではなく、「後任経管の採用が先。現:経管の退任が後。」ということになります。弊所でも、経営業務管理責任者の交代が必要な場合には、先に「後任経管の取締役登記」や「現:経管から後任経管への変更届の提出」をおこなってから、「現:経管の役員退任」をしてもらうことが多いです。

また、どうしても、後任の経管候補が見つからないという場合には、執行役員に後任経管になってもらうという方法もあります。

執行役員を後任の経管候補にするには?


取締役登記されていない執行役員を経営業務管理責任者にすることができるのですか?


はい。

取締役登記されていない執行役員を経営業務管理責任者にすることはできます。執行役員を経営業務管理責任者にして新規で建設業許可を取得するようなケースももちろんありますが、建設業許可を維持するために、取締役ではない執行役員を後任の経管に抜擢し、建設業許可を維持したケースもあります。

但し、執行役員を経管にするのは、イレギュラーな対応であること、本来であれば、経管は取締役でなければならないこと、などの理由から、手続き的にはハードルが上がりますし、証明資料なども通常よりも多くの資料の提示を求められることになります。

手続き面で言うと、東京都の場合は、事前相談を経てからの本申請という流れになりますし、関東地整の場合は、個別認定申請という手続きを経てからでないと、変更届を提出することができない運用になっています。また、書類面でいうと「組織図」「業務分掌規程」「取締役会規則」「執行役員規定」「取締役会議事録」といった通常では、必要とされない書類の提示も必要になります。

この点については、以前のインタビュー記事(※注)でも解説をしていますので、後任の経管を執行役員の中から選びたいという会社の人は、ぜひ、参考にしていただければと思います。

(注)【専門家に聞く】執行役員でも建設業許可は取れる?最新ルールと必要書類を実例で解説

経管変更に伴う届出の提出の必要性


執行役員が、後任の経管候補になることができるのですね。これは非常に大きな気づきです。ところで、仮に、現在の経営業務管理責任者が何らかの理由で不在となったとしても、「言わなければバレない」のではないですか?


そういうことをおっしゃる方は、よくいらっしゃいます。

しかし、経営業務管理責任者は建設業許可取得の要件であるだけでなく、維持の要件でもあるので、経管不在となった場合には廃業届の提出が必要です。また、仮に、経管の変更が必要になった場合には「変更後2週間以内」に届出の提出が必要とされています。さらに、「国土交通省のネガティブ情報等検索サイト」を見ると、経営業務管理責任者が不在となったことを処分原因とする許可取消処分が散見されます。

また、東京都の場合、経営業務管理責任者を変更する際には「前任者の常勤性の確認資料」と「後任者の常勤性の確認資料」の両方を提示することを求められます。先ほどの、X社の例で例えると、X社が4月1日に、現:経管のAさんから、Cさんに経管を変更しようとする場合、「前任者であるAさんの3月31日時点でのX社への常勤を証明する資料」と「後任者であるCさんの4月1日時点でのX社への常勤を証明する資料」の両方が必要になってくるわけです。

こういった資料から、実は、「Aさんが1月末時点で退職していた」とか「Aさんは、昨年の暮れに死亡していた」とか「Cさんの採用は4月1日ではなく、4月10日であった」という事実が判明することがあります。このような場合、X社に経管不在の日があることになるので、変更届を受付てもらうことはできず、いったんは、許可を取り下げ、再度、新規で建設業許可を取得するということになります。


処分の対象になるだけでなく、変更届を提出する際の必要書類から、そもそも、経管が不在であったことがバレてしまうリスクがあるということですね。


はい。その通りです。

そのようなリスクがある以上、どうしても、後任の経管候補が見つからないという場合には、法律の定めに従って、建設業許可の廃業届を提出し、経管候補が見つかったら改めて建設業許可を取得しなおすという流れがよいとお思います。


ありがとうございます。それでは、そろそろお時間が来ましたので、最後にひとことお願いできますでしょうか?


今日のテーマである経営業務管理責任者の交代は、非常にデリケートな問題で、慎重な取り扱いが必要です。

例えば、

■ 現経管の年齢の問題

■ 現経管の体調の問題

■ 会社の役員体制の問題

■ 後任人事の問題

■ 許可を失うかもしれない可能性

といったさまざまな問題をはらんでいます。代表取締役1人では判断が難しいでしょうし、人事部や総務部といった個別の部署独自で判断できるものでもないでしょう。建設業法の専門的な知識も必要になってきます。

すこし大げさになってしまいますが、個人の健康状態や人の命にかかわる問題ですし、建設業許可を失うということは会社の死活問題にもなってきます。いずれにしろ、対応に繊細さを要する内容ということができます。

こういった問題を未然に防ぐためにも、できるだけ早い段階で、弊所のような専門家にコンタクトを取って、適切なアドバイスを受けることが重要かと思います。また、取締役がどうしても経管の要件を満たさない場合には、執行役員にも範囲を広げて、後任候補を検討してみてください。

本日のインタビューが、「経営業務管理責任者の交代・退任」という大きな問題を抱えているみなさんの力になれば幸いです。

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