【専門家に聞く】経営業務管理責任者を外部から迎える際の3つのポイント

建設業許可の取得を検討している企業の中には、経営業務管理責任者を自社内で確保できず、外部の人材を迎えることを考えているケースも少なくありません。しかし、外部の人材を新規に採用する方法で建設業許可を取得するには、実務的にも法的にも押さえておくべき重要なポイントがあります。きちんとした知識のもとに、手続きを進めないと、いざ申請段階になって「要件を満たしていないことが発覚する」といった最悪の事態にもなりかねません。

今回は、「経営業務管理責任者を外部から迎える際の3つのポイント」をテーマに、建設業許可取得手続きの専門家である行政書士法人スマートサイド代表・横内賢郎先生にインタビューを実施しました。実務の現場で起きがちなトラブルや、スムーズに許可取得を進めるための具体的なアドバイスを伺っています。

経営業務管理責任者を外部から迎える際の注意点


横内先生。それでは、本日も、よろしくお願いいたします。今日のテーマは、経営業務管理責任者を外部から迎える際の注意点についてです。


はい。経営業務管理責任者の招聘についてですね。こちらこそ、よろしくお願いします。

建設業許可を取得するうえで「経営業務管理責任者の要件をどうやって証明して行くか?」は、とても重要です。自社の取締役の中に経管の要件を具備している人がいる会社もありますが、そうでない会社でも建設業許可の取得をあきらめる必要はありません。外部から「役員の経験者」や「過去に許可を持っていた元経営者」を招聘することによって、建設業許可を取得することができる可能性は十分あるからです。

外部から経営業務管理責任者を迎える場合、大きく分けて2つのケースがあります。ひとつは、親会社やグループ会社など、「関係のある企業から出向」という形で人材を迎えるケース。もうひとつは、「これまで関わりのなかった外部の人」を、新たに採用して迎え入れるケースです。

このうち、親会社やグループ会社からの出向役員を経管にして建設業許可を取得するケースについては、以前のインタビューで詳しくお話ししましたので、気になる人がいれば、インタビュー記事(※注)で確認をして下さい。今回は、親会社やグループ会社などの関係性がない会社から、まったくの知らない人を新規採用して取締役に迎え入れて、建設業許可を取得しようとする場合のポイントについて、お話しをさせて頂きます。

(注)【専門家に聞く】グループ会社から出向した役員は経管になれるのか?建設業許可の実例に学ぶ

申請会社の「常勤」の取締役になれるか否か?


それでは、経営業務管理責任者を外部から新規採用する場合の注意点をお願いします。


まず、経営業務管理責任者は、「申請会社の常勤の取締役」でなければなりません。そのため、外部から新たに採用した人が、みなさんの会社に「常勤」できる人でなければなりません。この場合に問題になる点が2つあります。

まず、「他の会社を経営している人」や「他社の代表取締役」を、採用するという場合です。のちほどお話ししますが、経営業務管理責任者には、一定期間の会社の経営経験が必要です。そのため、現在も、「会社を経営している人」や「経営者仲間である友人」を社内に招き入れようと考える人も少なくありません。しかし、その人が、いまでも、現役で働いているという場合には、「申請会社の常勤の取締役であること」という経営業務管理責任者の要件に反することになってしまいます。

また、「他の建設会社の経営業務管理責任者や専任技術者として、すでに登録されている人」を採用する際にも、同じことが言えます。たとえば、みなさんの会社でAさんを採用しようとしたところ、そのAさんがX社の経営業務管理責任者もしくは専任技術者であった場合です。X社が建設業許可を維持するには、経営業務管理責任者や専任技術者が必要です。その経営業務管理責任者や専任技術者は、X社に常勤していなければなりません。X社は、Aさんが、経管・専技としてX社に常勤してくれているからこそ、建設業許可を維持できているのです。仮に、AさんがX社の常勤から外れてしまうと、X社は、経管・専技の要件を欠くことになり、建設業許可を失うことになります。

X社をきれいさっぱり、退職して、みなさんの会社に就職するのであれば、何の問題もありません。しかし、「X社に籍が残っている」「X社での経管・専技としての登録が残っている」となると、「みなさんの会社に常勤すること」と「X社での経管・専技としてのポジション」との整合性が取れません。

このように、経営業務管理責任者は、申請会社の「常勤」の取締役でなければなりません。「常勤ではないのに常勤であるかのごとく装うこと」を名義貸しと言います。名義貸しによって、建設業許可を取得することは虚偽申請になりますので、絶対に行わないようにしてください。

なお、みなさんの会社に新しく経営業務管理責任者の候補を招く際に、必ず「取締役」として招き入れなければならないかと言うと、そういうわけではありません。さまざまな条件をクリアする必要はありますが、「取締役」ではなく「執行役員」として採用し、経営業務管理責任者にすることも可能ですので、あたまの中に入れておいてください(※注)

(注)【専門家に聞く】執行役員でも建設業許可は取れる?最新ルールと必要書類を実例で解説


経営業務管理責任者は、建設業許可を申請する会社に「常勤」しなければならないのですね。週に2・3回とか、1日3~4時間だと、「常勤」とは、言えなさそうですね。


はい。明確に「週何日以上でなければならない」「1日何時間以上勤務しなければならない」という線引きは、私の知る限りないようです。但し、一般的には、週5日間、1日7~8時間程度の勤務実態が求められているようです。

また、経営業務管理責任者に支払われる役員報酬についても、明確な金額は示されていません。但し、経営業務管理責任者は「常勤の取締役」として会社に在籍していることが前提ですので、その人に対する役員報酬が月数万円だったような場合には、名義貸しが疑われれも仕方ないでしょう。

他の会社を引退されたご高齢の方を取締役として招聘し、建設業許可を取得するようなケースもありますが、そういった方々に対する報酬の設定に関しては、「高齢だから」という理由で低く設定すると、常勤性が疑われかねないということを、覚えておいてください。

取締役もしくは個人事業主として5年以上の経験があるか否か?


はい。わかりました。それでは、「常勤性」以外で、経営業務管理責任者を外部から招き入れる際のポイントはあります?


はい。2つ目のポイントとして、過去の経験について、確認しておく必要があります。

経営業務管理責任者になる人には「取締役もしくは個人事業主としての経験が5年以上あること」が求められています。この点が、経営業務管理責任者の要件を満たす人が、とても少ない理由です。取締役や個人事業主としての経験は、会社勤めの人にとっては、縁のない世界です。そのため、長年、会社勤めをしていた人が、独立して、会社を設立して建設業許可を取得しようとする場合には、必ず、「取締役もしくは個人事業主としての経験が5年以上あること」といった点に引っかかってしまいます。

だからこそ、外部の経験者を招き入れる必要があるのですが、その際に注意が必要なのは、「取締役」「個人事業主」であったことを、きちんと法的に証明できるか?という点です。


証明資料の問題ということですか?


はい。その通りです。

取締役の経験があることは、登記簿謄本で確認することができます。そのため、これから経管として採用しようとしている人に、5年以上の取締役としての経験があったか否かは、比較的簡単に調べることができます。以前、「取締役の登記はされていないが、社長の右腕として長年、会社を支えてきたので、取締役をやっていたに等しい経験がある」ということをおっしゃる人がいました。しかし、それでは、証明資料になりません。あくまでも、登記簿謄本で確認しなければなりません。

みなさんの会社が経管候補を採用する際には、必ず、登記簿謄本で「過去5年以上の取締役の経験があるか否か」の確認をおこなわなければなりません。

これに対して、個人事業主の経験があったことは、税務署に提出する確定申告書で行うことになります。個人事業主の人の中には、「そもそも、確定申告をやっていない」とか「確定申告書をなくしてしまった」という人が散見されます。しかし、これでは、建設業許可を取得する際の経営業務管理責任者の要件を証明することができません。

どんなに長い期間、個人事業主をやっていたとしても、その間の確定申告書がなければ、経営業務管理責任者になることは、難しいので、採用という観点からは、候補から除外したほうが良いでしょう。

過去の建設業の経営経験の証明をすることができるか否か?


取締役もしくは個人事業主としての経験が5年以上あれば、業種は何でもよいのですか?例えば、知り合いに、「飲食店を経営していた人がいます」とか「アパレル会社の社長をやっていた人がいます」という人なら、いっぱいいると思うのですが。


とてもよい質問ですね。

ポイントの3つ目は、まさに、いまおっしゃっていただいた過去の経験の業種に関するものです。

さきほど、経営業務管理責任者になるには「取締役もしくは個人事業主としての5年以上の経験が必要」というお話しをしましたが、実は、この5年の経験は、どんな業種の取締役もしくは個人事業主としての経験でもよいわけではなく、建設業の経験であることが必要なのです。つまり、経営業務管理責任者になる人は、「過去に建設業における取締役もしくは個人事業主としての経験が5年以上必要」ということになります。


過去の経験は、「建設業縛り」という「縛り」があるのですね?


はい。

どんな業界の経験でも良いのであれば、もう少し、建設業許可も取りやすいと思うのですが、過去の経営経験は、「建設業界における工事の請負および施工に関する経験」でなければならないのです。

そして、この際に注意して欲しいのが、どうやって「5年間、建設業をおこなっていたことを証明するか?」という点です。ここは、少し難しいので、よりわかりやすく説明しますね。

たとえば、過去にY建設会社の取締役をしていたBさんを、みなさんの会社が採用しようとする場合。そのBさんは、御社の「常勤の取締役」として採用しなければなりません。また、そのBさんには、「5年以上の取締役の経験」が必要です。そして、Bさんは、「その5年間、建設業をおこなっていたこと」を証明する必要があります。ここまでは良いですね。


はい。理解できていますので、続けてください。


この場合、Bさんが、建設業をおこなっていたことの証明は、Y建設会社の「工事請負契約書」「工事注文書」「工事の請求書と入金記録」などによって、証明することが必要です。先ほどもお伝えしたように、Bさんの経験は、飲食店の経験やアパレルの経験ではダメです。また、保守点検やメンテナンスでもダメです。工事を請負ったり、工事を施工した経験が必要なのです。そのため、Bさんが経営業務管理責任者になるには、Y社の取締役であった期間のうち5年分の「工事請負契約書」「工事注文書」「工事の請求書と入金記録」などが必要です。

一方で、かりにY建設会社が建設業許可業者であった場合。その場合には、Bさんが取締役であった期間、Y社が建設業許可を持っていることを証明できれば、工事請負契約書などは必要ありません。建設業許可を持っているということで、「建設業をおこなっていたこと」が推認されるからです。


つまり、Bさんの過去の経験の証明資料は、Bさんの所属していたY社が、建設業を持っていたか否かによって変わってくるということですか?


はい。その通りです。

この点を理解するのが、一番難しいと思うので、もう一回繰り返しますね。ややこしくなるのを避けるために、個人事業主については、省略させて頂きます。

Bさんが経営業務管理責任者になるには、取締役としての経験が5年以上必要で、その5年以上の経験は、建設業をおこなっていたものでなければなりません。そして、建設業をおこなっていたか否かについては、工事請負契約書などで、実際に工事を請負っていたことを証明しなければなりません。ただし、Bさんが所属していたY社が建設業許可を持っていた場合には、建設業許可通知書を提示すれば足り、その間の工事請負契約書の提示を省略することができるという感じです。

専門家の視点からの要件チェックの重要性


なかなか、難しいですね。


はい。なので、もしみなさんの会社が本当に、経管を外部から招聘しようとする際には、その人が、過去に「どんな会社」で「何をやっていたか」ということに着目することが重要です。

たとえば、経管候補を採用し、社会保険への加入手続きや取締役への就任手続きや登記簿謄本の変更手続きを行ったあとに、建設業許可を申請する段階になって、「書類がそろわず、経管の要件を満たしていることを証明できかなった」とか「そもそも、経管の要件を満たしていなかった」ということも、起こりうるわけです。

そういった事態を防止するためにも、経営業務管理責任者を外部から招聘する際には、専門家に意見を聞いて、要件を満たしているのかの確認をしてもらうことをお勧めいたします。

人材紹介会社を通して、人材を紹介してもらう場合には、いま言ったようなトラブルは、ほとんどないと思います。人材紹介会社のほうで、しっかりとしたスクリーニングを行って、紹介する人材を選別しているように見受けられます。しかし、一方で、例えば、「社長の知り合いに経管になってもらう場合」とか、「ハローワークやインディードなどの媒体を利用して、独自に採用活動を行う場合」には、本当にその人が、経営業務管理責任者の要件を満たしているか?満たしているとして証明できるかどうか?がとても重要になってきます。

また、専門家に相談することによって

  • 新規に採用するのではなく、グループ会社からの出向役員でよかった
  • 取締役としての採用でなく、執行役員としての採用でよかった
  • 実は、自分の会社の社長が経管要件を満たしていた

という意外な盲点に気づくこともあります。


横内先生。本日は、貴重なお話しをありがとうございました。そろそろお時間ですので、最後に、ひとことお願いします。


今回のテーマは、はじめて聞く方にとっては、少し難しく感じられたかもしれません。

特に経営業務管理責任者の要件は、「誰がその要件を満たしているか」だけでなく、「どう証明するか」が建設業許可取得のカギになります。このあたりは、会社ごとに状況が異なるため、ネットの情報だけで判断するのが、非常に難しいところです。

行政書士法人スマートサイドでは、こうしたお悩みにしっかり対応するために、事前予約制の有料相談を行っています。

これまでにも多くの建設会社様から、「相談してよかった」「自社に合ったアドバイスがもらえた」とご好評をいただいています。「何が正しいのか、自信が持てない」「うちのケースでも大丈夫なのか知りたい」「外部の人材を採用するにあたって、不安を解消したい」ときは、どうぞ安心してご相談ください。最適な道筋を見つけていくお手伝いができると思います。

本日は、ありがとうございました。

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