【専門家に聞く】全国30拠点以上の建設会社に学ぶ|令3条の使用人と専任技術者の管理・変更届の実務

建設業許可の維持において、「専任技術者」や「令3条使用人」に関する変更届の対応は、決して軽視できない業務の一つです。特に、全国に営業所を展開しているような企業では、「各営業所への配置状況」「専任技術者が取得している国家資格の種類」「変更届の期限管理」など、多岐にわたる情報を正確かつスピーディに確認する必要があります。
しかし、「現場からの情報吸い上げがうまくいかない」「変更届の出し忘れや記載ミスが発生する」といった課題に直面している人事・総務担当者も少なくないでしょう。

今回は、行政書士法人スマートサイドの横内賢郎先生に、実際に全国展開している建設会社を支援してきた経験をもとインタビューを実施。「専任技術者や令3条使用人の情報管理をどう一元化するか」「どのようにエクセル等で運用しているか」「健康保険証や合格証などの管理方法」「令3条使用人に確認が必要な欠格要件」など、実務に即した対応策をご紹介します。

総務・人事ご担当の皆さまの業務改善の一助となれば幸いです。

大臣許可業者に必要な社内の体制


それでは、横内先生、本日もよろしくお願いします。


はい。こちらこそ、よろしくお願いします。

本日のテーマは、全国展開している大臣許可業者が対象ですね。弊所でも多くの大臣許可業者の申請手続きを扱ってきた経験があります。そのなかには、全国30拠点以上の営業所を構える建設会社もありますので、そういった経験をもとに、特に、人事部や総務部のご担当者さま向けに、有意義な情報提供ができればと考えております。

まず、全国に支店を展開する建設業の大臣許可業者において、重要な社内体制は、

  • 本店に、「経営業務管理責任者」と「専任技術者」が常勤していること
  • 支店に、「令3条の使用人」と「専任技術者」が常勤していること

の2点です。この点においては、基本的知識として理解されている人が多いと思います。ただ、「新たに人事部や総務部に配属になった新人の人」や、「初めて手続き業務の担当になった人」の中には、こういった基本的なことが理解できていない人もいると思います。

「令3条の使用人」とは、建設業法施行令の第3条で規定されている使用人のことですが、簡単に言うと「営業所の代表者」である支店長・支社長・営業所長のことです。この点については、「大臣許可」と「知事許可」の違いや、「営業所の移転・新設に関する変更届」と合わせて、前回のインタビュー記事で説明していますので、わからないという人は、ぜひ、前回のインタビュー記事(※注)も確認してみてください。

(注)【専門家に聞く】建設業許可業者が営業所を新設・移転する際の手続きと注意点を徹底解説

「専任技術者」「令3条の使用人」の常勤性について


はい。このあたりについては、大丈夫ですので、先に進めてください。


ありがとうございます。

いずれにおいても、重要なのは、「常勤していること」です。本店には「経営業務管理責任者と専任技術者」が、支店には「令3条の使用人と専任技術者」が、それぞれ、常勤していることが必要です。また、経営業務管理責任者と専任技術者は、兼務することができます。同様に、令3条の使用人と専任技術者を兼務するこもできます。

ただし、他の営業所の役職と兼務することはできません。たとえば、千葉営業所に配属されている令3条の使用人であるAさんが、埼玉営業所の専任技術者を兼ねるというようなことはできません。あくまでも、Aさんは千葉営業所の令3条の使用人として、「千葉営業所に常勤」していなければならないわけですから、他の営業所の専任技術者や令3条の使用人を「兼ねること・重複して兼務すること」はできないのです。


問題は、退職や異動があった場合ですよね。


はい。そうです。

全国に営業所を展開しているような会社には、異動が非常に多いです。通常の会社であれば異動は4月の年1回といったところですが、規模の大きい会社は、4月、6月、9月、12月といったように、年に何回も人事異動が発令されるケースも珍しくありません。そのため、各営業所に、バランスよく「令3条の使用人」と「専任技術者」を配置できないと、その営業所での建設業許可を維持できなくなってしまいます。

たとえば、先ほどの例で言うと、千葉営業所の令3条の使用人兼専任技術者であるAさんが、埼玉営業所に異動になったとします。千葉営業所にAさんの後任がいれば良いのですが、千葉営業所にAさんの後任が不在となってしまった場合、千葉営業所には、令3条の使用人および専任技術者がいないということになりますので、千葉営業所の建設業許可は取り下げるしかなくなってしまいます。

このように人員配置を一歩間違えると、その営業所で建設業許可を失うことになりかねないのです。そういったことにならないように、まずは、情報を一元管理しておく必要があります。

「専任技術者」「令3条の使用人」の情報一元管理の重要性


情報の一元管理とは、具体的に、どういった方法でしょうか?


はい。

私があえて説明するまでもないのかもしれませんが、強いて言えば、人事部や総務部の担当者が、各営業所の

  • 令3条の使用人の「氏名」「生年月日」「住所」
  • 専任技術者の「氏名」「生年月日」「住所」「保有資格」

をExcelなどの一覧にして、管理しておくことが大事です。

私が実際に担当している全国30拠点以上の営業所を持つ建設会社も、総務部担当者が、各営業所長から情報を収集し、常にExcelを最新の状態に更新し、建設業許可の失効がないように管理しています。「住所」については、住民票上の住所だけでなく、事実上の住所も把握しておくと良いでしょう。「社宅」や「会社が借り上げているマンション」に、居住しているケースもあるからです。

先ほど、お伝えしたように「専任技術者」や「令3条の使用人」は、各営業所に常勤していることが必要です。あらたに神奈川営業所の専任技術者に抜擢されたBさんの「住所」が、「大阪府大阪市」だったらどうでしょう?大阪市から神奈川の営業所に毎日通勤しているとは、通常考えにくいですね。そういった場合には、Bさんの神奈川営業所への常勤性が疑われてしまいます。

ただ、住民票上の住所は大阪市であったとしても、神奈川県内にある社宅や賃貸マンションから通勤することは可能です。そのため、住民票上の住所だけでなく、事実上の住所も一元管理できるように工夫をしておいてください。申請書類の中には、住民票上の住所ではなく、事実上の住所を記載しなければならない箇所もあるので、どちらの住所を記載すべきかは、都度、確認が必要です。


こういったExcelデータは、横内先生の事務所と、先方の会社とで共有しているのですか?


はい。

手続きが必要になった場合は、Excelデータを共有してもらっています。例えば、異動箇所や変更箇所を赤字で上書きしてもらうとか、備考欄に記入をしてもらっています。その情報をもとに、私の事務所で、国土交通省に提出する変更届を作成し、提出するという流れが一般的です。

さすがに「人事の情報」や「異動の情報」そのものを、私の事務所で管理・更新することは、していません。これらは、会社の機密情報かと思いますので、一次情報については、きちんと会社の方に、整理して更新して頂くようにお願いをしています。

「専任技術者」「令3条の使用人」に必要な書類の管理


なるほど、ここまではデータや情報の管理に関してでしたが、変更届の際に必要な書類は、どのように管理していくべきなのでしょうか?


この点についても、非常に重要です。

変更届には、その裏付資料として書類の提出が必要です。たとえば、

  • 会社への常勤性を証明する資料として「健康保険証」「標準報酬決定通知書」
  • 専任技術者の資格を証明する資料として「合格証」「免許証」
  • 令3条の使用人になるための必要書類として「身分証明書」「登記されていないことの証明書」

などが、必要になってきます。

まず、「健康保険証」「標準報酬決定通知書」は、専任技術者と令3条の使用人の両方において必要です。専任技術者と令3条の使用人が、本当に会社に常勤しているか否かを確認するための資料ですので、必ず、みなさんの会社で管理しておいて頂く必要があります。行政書士事務所である弊所が、各営業所の担当者に「健康保険証のコピーを送ってください」というような依頼はしていません。本社の人事部もしくは総務部のご担当者さまにて、一元管理して頂く必要があります。

また、専任技術者の証明資料として必要な「合格証」や「免許証」も同様です。「どの営業所に配属されているどの社員が、どの資格を持っているのか?」という点については、その社員の個人情報とともに「合格証」「免許証」を管理して頂く必要があります。たとえば、大阪営業所の専任技術者であったCさんは一級建築施工管理技士の資格を持っていたものの、Cさんの後任として大阪営業所の専任技術者になったDさんは一級建築施工管理技士の資格を持っておらず、一級建築士の資格しか持っていなかったというような場合があったとします。

この場合、一級建築士が専任技術者になることができる業種は、建築工事、大工工事、屋根工事、タイル工事、鋼構造物工事、内装工事の6つですので、大阪営業所で維持できる建設業許可も、この6つのみになってしまいます。CさんからDさんに専任技術者が変更になったことによって、Cさんが専任技術者であった頃に請負うことができた、とび工事や左官工事は、請け負うことができなくなってしまいます。

このように、各営業所で持てる建設業許可が、専任技術者の保有資格次第では、大きく変わってきてしまいます。そのため、人事異動そして後任人事を行う際には、「保有資格を確認すること」「専任技術者を変更しても、会社として影響がないこと」を確認しなければなりません。


「専任技術者が、どの国家資格を持っているか?」は、きわめて重要ですね。それでは、令3条の使用人の必要書類に挙げられている「身分証明書」「登記されていないことの証明書」は、どうでしょう?


令3条の使用人に就任するには、発行後3か月以内の「身分証明書」「登記されていないことの証明書」を国土交通省に提出しなければなりません。これは、令3条の使用人が、「営業所の代表」つまり「営業所長」「支社長」「支店長」として、破産者や成年被後見人でないことを証明するための書類です。

これらの書類もやはり、会社の総務・人事担当者の人に、必要人数分を取得して頂くことが多いです。もちろん、弊所で本人に代わって、代理取得することも可能なのですが、その場合には、委任状が必要になってくること、個人情報のやり取りが必要になってくることといった理由から、会社側で準備して頂くことが多いです。

2~3名分の書類であれば、弊所で取得することも可能ですが、一気に10名以上の書類の取得が必要になるような場合には、会社の方で取得して頂いた方が、安全のような気がします。

令3条の使用人と欠格要件について


個人情報の漏洩という観点からすると、その方が安全ですね。ところで、令3条の使用人は欠格要件に該当しないことも必要なのですよね。


はい。よくご存じですね。

令3条の使用人になるには、欠格要件に該当しないことも必要です。欠格要件とは簡単にいうと

  • 建設業の許可を取り消され、その取り消しの日から5年を経過しない者
  • 営業の停止を命ぜられ、その停止の期間が経過しない者
  • 禁固以上の刑に処せられたり、罰金刑に処せられたりした者
  • 暴力団員等がその事業活動を支配する者

というような、「建設業許可を与えるにふさわしくない者ではないこと」を言います。令3条の使用人が欠格要件に該当していないことの「誓約書」や「調書」の提出が必要になりますので、事前に確認しておくことが必要です。取締役に関しては、このような欠格要件がチェック項目になっていることが比較的有名なのですが、令3条の使用人についてまでチェックが及んでいることについては、意外と知られていません。

そのため、会社としては、令3条の使用人に就任しようとする人が、欠格要件に該当していないか否かのスクリーニングを行うことも、許可を維持する上では、重要になってきます。


それでは、実際に横内先生の事務所で、大規模会社の変更手続きを受任するにあたって、困ったことや気を付けていることなどは、なにかありますか?


困ったことで言うと、「会社の決定が遅い」または、「1度した決定が覆される」という点があります。全国展開している規模の大きい会社だけに、社長の即決というわけにはいかないので、仕方ない面もあります。但し、建設業法上、変更届の提出期限もありますので、できるだけ、速やかに、「異動」を発表して頂き、建設業許可の変更手続きをタイムロスなく始められるようにしたいです。

気を付けていることと言えば、書類の提出漏れです。とくに年度が替わる際には、国土交通省が発行している手引きの記載が変わっていることがあります。また、以前は必要であった書類が必要なくなっていたり、以前は必要なかった書類が必要になっていたりすることもあるので、手引きの記載は、細心の注意を払って確認するようにしています。

今のところ、大きなミスもなく、大規模会社のサポートも続けて来れていますので、そういった細かいところのチェックは、これからも怠らないように、気を引き締めて、作業を続けていきたいと思っています。


それではお時間になりましたので、最後に横内先生から、ひとことお願いいたします。


はい。

全国に多数の営業所を展開する建設会社にとって、「専任技術者」や「令3条使用人」の管理・変更届の手続きは、日々の業務に追われる中で後回しにされがちです。しかし、配置ミスが許可の失効につながるリスクを考えると、これは単なる「事務処理」では済まされない、きわめて重要な管理業務であることは言うまでもありません。

総務や人事のご担当者のみなさんは、「いつ異動があるか分からない」「現場との連携が難しい」「変更届の様式が頻繁に変わる」といった中で、常に正確性とスピードを求められていることと思います。私たちも、そうしたみなさんの現実をよく理解した上で、実務面からできる限りのサポートを行ってきました。

煩雑な手続きを、少しでも確実に、そして負担なく進められるように。現場と本社をつなぐハブとしての総務・人事のみなさんが、自信を持って管理業務にあたれるように。私たちはこれからも、経験に基づく知識とノウハウを活かし、建設業許可を維持するための専門家として、お客さまを支え続けていきたいと考えています。

本日は、最後までご清聴頂き、ありがとうございました。

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